地域ルポ 「しんみち通り」(東京・四谷)(1)異色の飲食街、外国料理店が密集
JR四谷駅から四谷見附の交差点に出る。この交差点は東西方向の新宿通りと南北方向の外堀通りがクロスする場所で、交通量の多いところとして知られている。「しんみち通り」は、この交差点の近接地、外堀通りと直角に接して、新宿方向に伸びているわずか一〇〇mほどの短い飲食街で、四谷駅前地区の中心的歓楽ゾーンとなっている。
この通りは新宿通りの西側を走っており、車一台が通れるほどの道幅しかない。日中は大して特色のない通りという印象を受けるが、夜になると一変する。
焼鳥屋、割烹、小料理屋、カラオケスナックなどの店も多いので、地域や隣接地の麹町方面から人が繰り出してきて、飲食街らしい賑わいをみせる。
飲食街としての性格を強めだしたのは、昭和39年の東京オリンピックの頃からで、それ以前は食品や物販店が多く、地域のマーケットとしての存在にあったようだ。
「いまではすっかり飲み屋街、飲食街という性格ですが、戦前から東京オリンピックの頃までは八百屋、魚屋、履物屋、床屋ありと、ちょっとした商店街で、新宿通りよりはるかに賑わいがあった通りなんです」と、しんみち通り商店会の峯村一雄会長。
《全店舗の80%が飲食店》 しかし、今ではビル化が進んで店舗数も二倍、三倍に増えた。店舗数約一二〇店、このうちの八割が飲食店舗だ。
ビルはオフィスビル、雑居ビルという性格で、建物は四、五階から七、八階、飲食店舗は一、二階および地下一階での出店が大半だ。
飲食店舗は前述したようにアルコール業態が目立つが、喫茶、中国料理、洋食レストラン、西洋料理ほか、エスニック料理の店も複数存在する。
エスニック料理といえば、最近はタイ料理の店が主流になるが、この通りはメキシコ、スリランカ、アジア、アフリカ料理とユニークだ。
このほかにはスペイン料理の店やフランス、ドイツのワインハウスもある。狭隘な飲食街にこれだけの外国料理の店が存在するのは珍しい。
ということは、しんみち通りはどこにもある飲み屋街や飲食街ではないということだ。JR四ッ谷駅は千代田区と新宿区の接点にあって、しんみち通りは新宿区に位置するが、駅周辺には上智大、聖イグナチオ、ルーテル教会、主婦会館、迎賓館、ホテルニューオータニ、文化放送ほか、小中高など学校施設が多く点在しており、文教、風紀地区としての性格にある。
このため、地域のプレステージの高さに合わせてストイックで、カルチャー志向の店も増えてきているのだ。
「どちらかというと、飲み屋街というイメージの方が強いんですが、意外にもエスニックなど外国料理の店も集まっているんです。やはり、地域の文化性に対しての出店だと思うんですが、私もこういった地域のイメージを考えて、六年前にメキシコ料理の店を開店したわけです」(メキシコ料理「エル・アルボル」オーナー手城木光明さん)。
しかし、地域のプレステージ、イメージは高いが、しんみち通りはそれに見合った形にはなっていない。
JR四ッ谷駅は二年前にリニューアルして、ブティックや飲食店舗が入居するファッショナブルな駅ビル「アトレ」に変身した。駅のリニューアルに伴っては四谷見附の橋を架け変えるほか、周辺の歩道を舗装して新しい街並みとして生まれ変わった。
《商店会の結束と活動が必要》 これらのリニューアルにより、地域のイメージはさらに高まったのだが、しかし、駅ビルの目と鼻の先にあるしんみち通りは旧態然としていて、かわりばえがないといった趣きだ。
この通りは狭い道でありながら車も往来する。車の往来を禁止して路面をカラー舗装化し、樹木を植え、街灯やシャレた電話ボックスを設けたりして、通りを抜本的に活性化する、こういった街づくりになって地域への来街者を増幅させ、通りの商業活動を活発化する‐‐。
しんみち通りに対して、こういったイメージを抱き、思いを寄せている店舗経営者も少なくない。しかし、商店会としての結束と活動が不十分なので、通りのこうしたシナリオはまだ遠い先だ。