そば・うどん特集 「三朝庵」 カレー南蛮の元祖

1993.12.20 42号 12面

「明治30年代、進取の気質、肉好きだった初代朝治郎は、近所にできたフランス料理屋のカレーライスから、そば屋にも利用できないものかといろいろ試し、ついに『カレー南ばん』を発案しました」と、カレー南ばん元祖「三朝庵」四代目当主・加藤久武さんは語る。

当時肉といえば牛肉、鶏肉を指しており、豚肉は卑しいものとされていたが、これをカレー南ばんに取り入れたというのも初代の心意気。穴八幡筋向かいの角地に位置し、軍人、学生の街として賑わい、給金二、三円、もり、かけ八銭の時代、二〇銭でデビューさせた。

「今も初代が麺に合うカレーとして、四谷の杉本商店さんにつくってもらったルーを溶かして使っています」と、過去ニセ物騒ぎなどの曲折を経ながらも、初代の味を今に伝えている。

「カレー南ばんは、いろいろ売られているが、自分のうちのが一番うまいと自負している」と柔和な顔をほころばせる。

同店はカレー南ばんのほか、開花丼、カツ丼の元祖でもあり、昭和36年ごろ冷やし中華が出始めると早速応用し、冷やしたぬき、冷やしきつねに姿を変えて新メニューとした。先代の気骨は今も健在である。

主なメニューは、カレー南ばん七八〇円、天ぷらそば八〇〇円、おろしそば七〇〇円、もり五〇〇円、ざる六〇〇円。そばは、更科粉を使い、味がまろやか、のびるのを遅くするため卵(らん)切り入れである。学生街のため、量も少し多め。

「うちは天ぷらがおいしいから、たぬきもおいしョ、と学生さんの財布と相談してたぬき+ごはん+生卵+たくわん‐六〇〇円を出しており、先代からの教えで、そばつゆは体に良いし、いくらでもあるからどんどん飲みなさいとすすめている。いつまで続くかわからないけど、続く限り、心の商売をしたい」と奥さんも言葉を添えた。

▽「三朝庵」(東京都新宿区馬場下町、03・3203・6218)▽営業時間‐午前11時~午後5時、木曜休み

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