特集そば・うどん 「薮重」ユニークな老舗

1994.05.23 52号 13面

一歩足を踏み入れると、壁には洋画、六人掛けのベンチシート、豪華なメニューブックと、まるでファミリーレストランのような店内だ。だが、ここは創業四〇年も数える藪の老舗「藪重(やぶじゅう)」。老舗の伝統を受け継ぎながらも、時代にマッチしたユニークな店舗戦略で人気を得ている。

店を構えるのは足立区の梅島駅付近。「客層がつかめないんです」と店主の石井さんの言葉通り、客層は常連から一見、ファミリーにカップルと幅広く、そば屋としては異例の人気ぶりを見せている。

店舗を改装したのは五年前で、それまでは本業のそばを主力に展開していた。冷夏など天候不順による売り上げのムラを防ぐため、そば以外のメニューにも注力した。「比較的ひまな夜に出来る商売はないか」と思いたち、居酒屋機能を果たすため一品料理、酒の種類を増やした。続いてしゃぶしゃぶを導入、メニューは増えていった。

「やはりそばにはこだわるが、これだけ飲食店が乱立するとそばだけでは」と本音。しかし「毎日宴会料理の追加料理と考えれば苦でない」と前向きな姿勢を強調する。

そんな柔軟な石井さんの発想はメニューにも息づいている。夏場におすすめなのが、「和風サラダそば」(八五〇円)だ。そばつゆに酢、油、ワイン(ロゼ)を混ぜた特製ドレッシングをかけたもので、具は、和風感を出すため長ネギ、キュウリ、ニンジン、かいわれ、錦糸卵を主体としている。ほかにも、「冷しゃぶそば」「冷はもちりそば」「海藻サラダそば」「カニサラダそば」とアイテムは豊富。石井さんいわく「そばの夏需要は、食欲がなくてそば位しか食べられない人が多いことも原因。ならばもっと楽しめるように選択の幅を広げたい」。

一方、冬場の藪重は、しゃぶしゃぶとそばをドッキングさせた「しゃぶそば」。卓上コンロを利用し、客が自らつくる鍋焼うどんなどでにぎわっている。老舗ののれんを守りつつ、常に客の立場を考慮する藪重のやり方は、今後、そば屋の新しく進むべき一つの道筋として注目される。

◆「藪重」=東京都足立区梅田七‐三六‐二、Tel03・3849・4191

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