総点検-激震下の外食・飲食業 花正、1000円バイキングで旋風
(株)花正(本社=東京・江戸川区平井、小野博社長)も(株)スエヒロレストランシステム(本社=東京・中央区銀座、干田弘義社長)もオーナー経営で、両者ともにステーキ、焼肉、しゃぶしゃぶなど肉料理を主力商品にしているのが、大きな共通項だ。しかし、事業(経営)戦略については両者の考え方、スタンスは大きく異なる。いわば、花正が東京下町の“根性・熱血経営”とすれば、スエヒロは山の手の“慎重・管理型経営”というところだ。
花正は昭和36年、食肉の小売業からスタートして今日の発展をみており、食肉業界では“肉のハナマサ”として知られた存在にある。
昭和42年、自社の食肉工場を建設し、そして、日本初の「ミートパック方式」による小売販売を導入した。花正を企業として発展させた大きなキッカケだ。
ミートパック方式とは、ポリエチレンのパックに、部位ごとに肉を小分けして、商品の清潔感を訴求したもので、計り売り(バラ売り)が一般的だった当時においては画期的な小売形態だった。
しかも、低価格で商品には「スキヤキ用」「カレー用」という具合に、肉の使い道も表示してあり、これも消費者の心を捉えた。
“いいものを安く、より買い易く売る”。これは創業者小野博社長の事業哲学だ。「商売のコツは肉屋だった叔父に教えてもらった」と小野社長は述懐するが、創業経営者だけあって、市場ニーズを捉えたヒラメキとそれを実行に移す決断力は天性のものだ。
五〇年代に“どッきり市場”“ミートパビリオン”と称して、食肉を市価の三割、四割引きで販売したのは、“肉のディスカウンター”“肉のハナマサ”と評価を定着させた画期的な売り方だった。
一方、飲食分野においては、昭和52年、一〇〇〇円で食べ放題の「焼肉バイキング」を出店、業界に大きなインパクトを与えた。焼肉バイキングはその後、ミートパビリオンとの複合店を出店するほか、シュラスコ、ロティサリー料理と新業態を打ち出し、業界に新風を吹き込んでいった。
「他社の追従はしない。自社の得意ワザを軸にして、自らが市場を創造していく」。業容、業態の拡大は、花正小野流のこういった企業哲学に発しているのだ。
昨年度の売上高四二〇億円。店舗展開は物販三一店(直営二五、FC六)、飲食八八店(直営五六、FC三二)の実績をみている。
飲食分野については、国内ばかりではない。昭和62年、FC方式でインドネシア(ジャカルタ)に「焼肉バイキング」海外一号店を出店して以来、中国(北京、上海、天津、ほか)、マレーシア(クアラルンプール)、シンガポール、韓国(ソウル)と五ヵ国に計二〇店を出店、国内外食業界の中でも数少ない海外戦略を展開している有力企業だ。
海外戦略といえば、花正は今年8月に入ってモンゴルの首都ウランバートルに、焼肉としゃぶしゃぶの店「モンゴル花正」をオープンした。これは日本からはもちろんのこと、西側先進国の外食企業としても初の進出で、花正らしいチャレンジ精神の表れだ。
出店は合弁方式によって具体化したもので、メニューは焼肉としゃぶしゃぶの食べ放題(バイキング)が各六八〇円、両方の食べ放題が八五〇円という価格政策。
初年度売上げ一億円を見込んでいるが、これは大きな数字だ。果たして花正の焼肉バイキングがモンゴルの地でも成功するかどうか、大きく関心がもてるところだ。
花正の決断と実行は、昨年9月に同時オープンした銀座ナインの焼肉とワインの「カルネステーション」、ロティサリー(グリル料理)とワインの「ファームグリル」にも発揮されている。
両店ともに二〇〇坪、三〇〇席を超える大型店で、焼肉とワインのカルネステーションは、単独では日本最大の規模で、プレステージの高い銀座にあっては珍しく連日の盛況ぶりで、月間七〇〇〇万円を売るほどの集客力を誇っている。
ランチ(午前11時~午後3時)がライス・スープ・コーヒー付きで食べ放題、ディナー(午後5時~同11時)が二九〇〇円で食べ放題、飲み放題という徹底した「低価格志向」が人気のヒミツだ。
食肉の“安売り商法”で、業界や消費者に強烈なインパクトを与えた花正が、外食分野においてもディスカウントビジネスを展開してきているわけだが、これは昨年11月からスタートした「輸入ワイン」も同じだ。
フランス、イタリア、ドイツ、スペインなどヨーロッパのワインを直輸入し、自社販売(卸売)をおこなう。もちろん、自家消費もある。
その国の最も人気度の高いテーブルワインが一本(七五〇ミリリットル)二九〇円(希望小売価格)。高価格志向が当たり前の国内ワイン市場にあっては(現在は改まってきている)、驚異の価格破壊としかいいようがない。
マスコミを大きく賑わしたのは周知のとおりだが、花正の企業としての強味は、新事業へのチャレンジ精神と消費者の視点に立った「価格革新」にあるようだ。
花正はステーキ(焼肉)レストランの“ディスカウンター”として、独自の市場を切り開く。写真は銀座ナイン3号館の「花まさ館」。地下一階に焼肉「カルネステーション」、地上二階にグリル料理「ファームグリル」の大型店も出店
◇(株)花正
・本社所在地/東京都江戸川区平井六‐五四‐一
・設立/昭和44年10月(創業大正12年)
・資本金/四〇〇〇万円
・代表取締役社長/小野博
・店舗数/国内八八店、海外五ヵ国二〇店
・売上高/四二〇億円(九四年度)