トップインタビュー:ゴールデンマジック・山本勇太代表取締役社長
次々と斬新なアイデアで外食シーンを活性化させているダイヤモンドダイニングが、同社の強みでもあった「居抜き」をコンセプトに新会社「ゴールデンマジック」を設立した。社長に抜擢された山本勇太氏は、数多くの新店立ち上げやM&A後の体制づくりなどに尽力し、ダイヤモンドダイニングの躍進を支えてきた。5年で100店舗100億円というミッションにも「こういう大変な目標をもらって逆に幸せだなと思っている」と笑顔でプレッシャーをはねのける。さわやかな新世代「飲食人」に、同社の前途を語ってもらった。
◆オープン直後利益率は44%
–6月にオープンした1号店「三丁目の勇太」(新宿3丁目)が絶好調ですね。
山本 オープン2ヵ月目の7月には営業利益が約44%出ました。「いくだろう」とは思っていたんですけど、予想以上に幸先の良いスタートが切れました。おかげさまで三丁目の勇太のほか、「九州料理 熱中屋」(品川)、「鉄板ぎょうざ・コラーゲン鍋 満月とすっぽん」「博多串焼き・卵焼き 博多入道」(ともに新宿3丁目)の4店舗が、どれも好調です。
–ゴールデンマジック社は、ダイヤモンドダイニング社の100%子会社として設立されました。どのような特色を打ち出していくのでしょうか。
山本 ダイヤモンドダイニングは、常に新たな飲食店の可能性にチャレンジしていくという使命があります。それは外部の人からも期待されていることですし、そのために利益を度外視してでもチャレンジするようなこともあります。
対してゴールデンマジックは、「居抜き物件」に特化して出店し、飲食店に本来あるべきものをとにかく強めて、収益力の高い事業にしていきます。5年間で100店舗、売上げ100億円の会社を目指します。
–居抜きに特化した理由は。
山本 今の不景気で居抜き物件がいっぱい出てきて、人も採用しやすい。その意味では、たいへんメリットがあります。初期投資が抑えられるので、おいしいものを安く提供してお客さまに還元できるのも強みです。そしてダイヤモンドダイニングのコンセプトではできなかったことができます。「チェーン展開」や「郊外出店」も積極的に視野に入れていきます。
◆FLコントロールで高収益
–山本社長は、ダイヤモンドダイニング社に就職して4年半で新会社社長に抜擢されました。その前に、去年の夏にM&Aしたサンプール社の店舗を見事立て直した実績がありますね。
山本 7店舗が2年間赤字続きだったのを、何とか2ヵ月で営業利益26%まで出るようにしました。
–立て直しの秘訣を教えてください。
山本 メーンとなるのはFLのコントロールです。僕が入る前はFLが70%近くもあったのを45%までに落とし込んでいったのです。食材の原価が高すぎたので主軸の商品には金をかけるけど、ほかは落とす。人員も客数に合わせて調整する。結果、客数は変わっていないけど、しっかり利益がとれる店になりました。
最後の数字から逆算して構築する方法が一番やりやすい。そこに導く方法は無数にありますから。
–FLのコントロールをしっかりとりながら、集客できるメニューを考えていかなければいけません。今のお客さまのニーズをどうとらえていますか。
山本 やはり内装やサービスに比べて、口に入るもの(食べ物と飲み物)に力を入れると売れるなというのは、ずっと感じています。僕は「物産展」が大好きで、デパートの催事にはできるだけ足を運ぶようにしています。断トツに人気があるのは「北海道物産展」と「九州物産展」。その中でいつも人気ナンバー1なのが「いかめし弁当」です。三丁目の勇太にイカ飯を入れたのも物産展からヒントを得ました。
◆郊外店成功へ「安心感」創出
–先ほどチェーン展開や郊外出店にふれていましたが、すでに構想をお持ちですか。
山本 郊外への出店は、100店舗を達成させるためには絶対に必要なノウハウになってきます。最初はすごく慎重にやっていきます。僕らのようなネームバリューを持たない店を出すとなると、「和民」などネームバリューのあるチェーン店のようにはいきません。どうしても走り出しが悪い。これはダイヤモンドダイニングで新店を出すときにもぶつかった壁でした。「どんな価格帯なのか、どんなサービスなのか、どんな内装なのか」など、どうしたらお客さまに安心感を与えられるかが課題だと思っています。
–現時点でチェーン展開を見込める業態はありますか。
山本 熱中屋に大きな手応えを感じています。食材に対するお金のかけかたとメニューの構成がすごくうまくいっている店で、お客さまの支持もたいへん高い。活イカや豊後サバなどをどこよりも安く食べていただきながら、しっかり利益も出せる仕組みを作ることができている。チェーン展開を視野に入れて、さらにブラッシュアップしていきます。
–近ごろいろんなスタイルの「立ち飲み屋」が増えていますが、立ち飲み業態はどうでしょう。
山本 三丁目の勇太はものすごく狭いので立ち飲みスペースを作って客数を増やしてはいます。でも、目指す利益から逆算していくと、立ち飲み屋では合わない。立ち飲みでの平均客単価では、しっかり利益を確保していくのは難しいと思います。
◆就職するとき「腹くくった」
–不景気の今だからこそ、発揮できる強みをとことん生かしていますね。
山本 「苦しい」という声をたくさん聞きますが、やれることはいっぱいあります。僕は飲食業界に就職するときに、ものすごく腹くくったんですよ。「もう寝られない、休めない」と。でも、寝なくても休まなくてもいいから「自分の店を作りたい」と。自分の人生を全部かけてこうという意気込みで来たんです。なので、それをスタッフにも強要します。「笑って歯を食いしばれ」って。苦しいのを楽しめるように。みんなで支え合っていけるような環境を作るのが、今の僕の仕事ですね。
○プロフィール
やまもと・ゆうた=1978年埼玉県出身。大学在学中から会計士を目指していたが、突然「こんな店をやりたい!」とひらめき、まったく未経験だった飲食業界へ。ダイヤモンドダイニング入社後、数字の強いエリアマネジャーとして頭角を現す。(株)サンプールM&Aのときに、取締役営業本部長に就任。不採算店の立て直しをわずか2ヵ月で行う。2009年(株)ゴールデンマジック設立とともに、代表取締役社長に就任。
○企業メモ
(株)ゴールデンマジック(本社=東京都港区東新橋1-1-21、今朝ビル4F)設立=2009年5月/資本金=1億円/店舗=「いか飯・やきとん 三丁目の勇太」「九州料理 熱中屋」「鉄板ぎょうざ・コラーゲン鍋 満月とすっぽん」「博多串焼き・卵焼き 博多入道」※2009年9月現在/社長ブログ=http://ameblo.jp/golden-magic/
○事業内容
(株)ダイヤモンドダイニングが、新たな成長モデル構築のために設立。居抜き物件に特化した出店展開により、初期投資を抑えた高収益業態を開発していく。今後5年間で100店舗、売上げ100億円を目指す。店名は異なるが、統一して「活気酒場」というスローガンを掲げ、「雰囲気と安心感のチェーン化」をもくろむ。「活気酒場」のほか、女性をターゲットにした店舗には「○美」のマークをつけてブランド化を図る。