column:なぜ和牛は外国人にウケるのか? 輸出拡大に向け家畜改良センターが初調査

2019.12.02 490号 15面

 国産牛肉の輸出実績は着実に増加。過去7年間で863tから3560t、506億円から2473億円になり、枝肉卸売価格(中央10市場平均)も1kg約1500円から約2500円に跳ね上がった。いずれも衰える気配はなく、今後も高水準の推移が見込まれる。ところで「なぜ和牛は外国人にウケるのか?」。独立行政法人・家畜改良センターは、その根拠と傾向を示す研究論文を「外国人の和牛肉に対する嗜好性調査」として「肉用牛研究会報」で近々発表する。

 ●16ヵ国の訪日外国人が回答 和牛を「好き」が97.2%

 論文は和牛の輸出拡大を目的に作成したもの。食品事業の関係者として来日した外国人に和牛の試食アンケートを行い、16ヵ国・1030人の回答をもとに、欧米・豪州圏(以下:欧米豪圏)とアジア圏の感受性の相違などについて調査・執筆した。

 和牛は海外産牛に比べて筋肉内の脂肪交雑(サシ)が多く、「軟らかさ」「ジューシー」「和牛香(甘く脂っぽい香り)」の3点が魅力。今回の試食アンケートは、和牛香の感受性を重視して行われ、「試食肉(和牛)を好むか?」の問いでは「好き」の回答が圧倒的多数(97.2%)を占めた。また、「軟らかさ」は世界共通で好まれるが、「ジューシー」はアジア圏で、「和牛香」は欧米豪圏で、より好まれることが新たに分かった。

 調査結果を生かす輸出振興については、二つの方策が示された。アジア圏では普段食べる牛肉の脂肪分が比較的多く、日本と似た薄切り調理の食文化を有する。従ってアジア圏には引き続き「軟らかさとジューシーさ」を訴求するのが有効。欧米豪圏では普段食べる牛肉の脂肪分が少なく、焼くことを基本にした厚切り調理の食文化。従って欧米豪圏には「脂肪の多い和牛に適した調理法」を訴求するのが有効であり、さらに「ももなど赤身の多い部分をPRする必要がある」と指摘した。

 ●脂肪の量だけでなく質を高めるのが課題

 和牛は牛肉の輸入が自由化して以降、海外産牛と差別化するため、和牛の魅力である脂肪交雑を増やす改良が続けられてきた。しかし昨今は、全頭の85%以上が4等級以上(BMSNo.5以上)となり、脂肪含有率が約50%に達するなど、脂肪の行き過ぎを懸念する向きもある。

 論文著者である家畜改良センター企画調整部改良技術課の尾花尚明氏は「和牛のおいしさには、脂肪量と脂肪質が関係していると考えられ、適度な脂肪量は食感を軟らかくジューシーにし、甘く脂っぽい和牛香を高める。また、脂肪を構成する脂肪酸のオレイン酸は、和牛の場合50%を占め、オレイン酸の融点は14℃と低いことから、牛肉の口溶けに関係していると考えられる。同じ脂肪量であっても、オレイン酸の量により和牛香が変化するという研究結果もある」と説き、「今後は脂肪量を増やすだけでなく、脂肪質を高めていくことが、輸出拡大の課題となるだろう」と見込んでいる。

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