ラーメン特集 「釜玉中華」の大いなる可能性
◇うどんがうまけりゃ、ラーメンだってうまい!
卵と醤油を混ぜる釜玉うどんを踏襲した“釜玉”スタイルのラーメンが今、注目されている。各店の例を見ると、釜玉中華は油そば、混ぜ麺に近いが「麺の中央に生卵を落とす」「醤油ベースの少量のタレを絡める」といった特徴が共通項だ。麺自体をシンプルに楽しむ釜玉は日本人の食志向ど真ん中といえ、ラーメンの新カテゴリーとして定着しそうだ。
○釜玉とは 茹でたての麺に生卵と醤油を絡めて食べるとてもシンプルな食べ方です。(「ナポレオン軒」のメニュー表記より)
◆「ゴールデンタイガー」 釜玉スタイルの先駆け店「日本の国民食になり得る!」
今年に入ってから急速に注目度が高まった感のある釜玉中華だが、2018年からイチ早く提供していたのが「ゴールデンタイガー」だ。同店では豚骨ベースのつけ麺と「TKM」の2つの看板商品を掲げており、当初はつけ麺人気が高かったが、開業約1年後には人気が逆転した。同店の「TKM」は、だし醤油ベースの油ダレと全卵で麺をシンプルに楽しむ王道の釜玉スタイル。強いコシがある太麺は冷水で締めて提供し、レモンまたは鰹節を添える提案が特徴的だ。同店のゴードン店長によると「(釜玉中華は)麺ののど越しとコシの強さが何より大事。冷たい麺の方がその魅力が出る。レモンや鰹節を添えると、麺自体のおいしさが引き立つ」。また、「卵も重要な主役。コクを付与するだけでなく、麺のすべりをよくするのに不可欠」と語る。釜玉スタイルの可能性について「卵がけご飯がこれほど日本人に愛されているのと同様に、卵がけ麺も国民食になり得ると思いますよ」というのがゴードン店長の実感だ。
●店舗情報
「ゴールデンタイガー」
開業=2018年3月/所在地=埼玉県熊谷市本町2-116アイジマビル1階/席数=14席/1日平均集客数=200人
◆「釜玉中華そば ナポレオン軒」 ブームを牽引する人気店 たっぷりネギでシンプルに
釜玉中華人気が急上昇した火付け役といえるのが、人気店「つけめんTETSU」を手がけた小宮一哲氏が展開する「ナポレオン軒」。コロナ下の外食が苦境に陥った時期に小宮氏が「どこにもない商品を提供できれば、お客は必ず戻ってくる」として、約1年の年月をかけてまずは麺のおいしさを追求した。その後、完成した究極の麺を使い「ラーメン、つけ麺などいろいろ試した中で、最も麺をおいしく味わえたのが釜玉スタイルだったそうです」と、中澤良店長。同店が開発に注力した“究極の麺”は、加水率が高いもちもちとした食感のちぢれ太麺だ。豚骨、鶏ガラ、背脂、昆布、椎茸などを合わせた醤油ベースのタレを器の底に入れ、温かい麺、ごま油+醤油ダレで和えた白髪ネギ、全卵を混ぜて食す。たっぷりの白髪ネギと卓上に並ぶ各種味変アイテムが、同店ならではの魅力といえる。シャキシャキの白髪ネギが麺の味を際立たせ、卵がタレをほどよく緩めるなど、全体の味バランスが絶妙だ。
●店舗情報
「釜玉中華そば ナポレオン軒」
開業=2022年3月/所在地=東京都目黒区中根1-5-1/席数=7席/1日平均集客数=180人
◆「麺や 麦ゑ紋」 トッピングにもひと工夫 素材のおいしさをダイレクトに
釜玉中華は最近台頭してきた新グルメということもあり、まだ明確な定義づけはないのが現状。「麺や 麦ゑ紋」では、釜玉麺を「油そばと比べて油の量が少なめで、“タレ(醤油)”“麺”という素材のおいしさをダイレクトに味わう一品」と位置付けているようだ。同店の釜玉麺はその考えから、素材にこだわる。タレは岡直三郎商店の火入れしていないフレッシュな「生揚げ醤油」を使用し、鰹だしを合わせためんつゆ風に仕上げ、鶏油を加えている。麺はパスタに使用されるデュラム小麦をベースにした独特の弾力とつるみのある麺を熱々で提供。濃い卵黄が特徴のブランド卵「マキシマムこいたまご」と混ぜて食べると、麺の力強さが引き立つ。味わいとしては、そば、釜玉うどんに近い和風のおいしさだが、別皿で付いてくる3種のトッピングで洋風に味変でき、楽しみが広がる。釜玉麺と並ぶもう一つの人気商品「合盛りつけ麺」も、同店の麺へのこだわりが感じられるユニークな一品だ。
●店舗情報
「麺や 麦ゑ紋」
開業=2021年8月/所在地=東京都新宿区西新宿7-4-6 ストーク新宿井岡1階/席数=23席/1日平均集客数=平日200人、土日祝300人
◆「中華そば 千乃鶏」 夜だけの名物メニュー ビールのアテにも好相性
「シンプルなおいしさが釜玉中華の魅力」と心得る店が多い中、その魅力と合わせてトッピングでパンチあるジャンク系への味変を提案しているのが「千乃鶏」だ。もともとまかないメニューだった釜玉を夜の限定メニューで販売したところ人気を呼び、日販20食の“夜の名物”になったという。稲葉拓也店長によると「ビールと合わせて注文する人も多い」そうで、アルコールのアテとしての釜玉中華の可能性を感じさせる。同店の「釜玉油そば」は、温かい極太麺を、かえしに鶏油を加えたタレと卵黄で絡めるスタイルで、麺の下に具材を仕込んでいるのが面白い。見栄えの美しさを重視し、具材を麺の上に盛らず下に潜ませたようだが、麺を上げたら具材が出てくるちょっとした驚きがまた楽しい。そして、別皿で付いてくるのが、揚げニンニクとガーリックマヨネーズというパンチのあるトッピングだ。「ジャンクっぽい迫力ある釜玉というのもおいしいんですよ」と、稲葉店長は語っている。
●店舗情報
「中華そば 千乃鶏」
開業=2022年3月/所在地=東京都世田谷区池尻2-36-11/席数=11席/1日平均集客数=120人