クローズアップ現在:「生〇〇」人気衰え知らず 日本人は元来“生”好き

2025.05.05 555号 10面
23年頃からブームの「生ドーナツ」は、「生っぽい食感」「揚げずにオーブンで焼く」ことから“生”としているなど、店舗によって定義が異なる

23年頃からブームの「生ドーナツ」は、「生っぽい食感」「揚げずにオーブンで焼く」ことから“生”としているなど、店舗によって定義が異なる

焼き鳥専門店「新宿御苑 鳥焼晴京」の“生”メニューは斬新だ。低温調理した鶏むね肉をのせることで、親子丼を「こだわり玉子の生親子丼」として提案。そのネーミングの妙からも同店の人気名物料理になっている(写真は24年1月の取材当時のもの)

焼き鳥専門店「新宿御苑 鳥焼晴京」の“生”メニューは斬新だ。低温調理した鶏むね肉をのせることで、親子丼を「こだわり玉子の生親子丼」として提案。そのネーミングの妙からも同店の人気名物料理になっている(写真は24年1月の取材当時のもの)

ファミリーマートの「白生パン」シリーズは3月25日の発売から13日間で累計販売数合計500万食を突破。4月8日からは新たに「白生ドーナツ(チョコホイップ)」(145円・税込み)、「白生コッペパン(トリプルチーズ)」(158円・同)を販売

ファミリーマートの「白生パン」シリーズは3月25日の発売から13日間で累計販売数合計500万食を突破。4月8日からは新たに「白生ドーナツ(チョコホイップ)」(145円・税込み)、「白生コッペパン(トリプルチーズ)」(158円・同)を販売

高級食パンブームの火付け役となった「乃が美」の「高級生食パン」は、焼かずに「生」でおいしく食べられるという点から、“生”をうたっている

高級食パンブームの火付け役となった「乃が美」の「高級生食パン」は、焼かずに「生」でおいしく食べられるという点から、“生”をうたっている

 生ドーナツ、生カステラ…と、「生」がつく商品がブームになってから現在まで「生」は持続力が強い。数々の食品のブームが来ては去り、また、ブームのワードも出ては消えていったが、「生」に関しては長期にわたり使われており、陳腐化することなく今も続いている。なぜ時代を超えて「生〇〇」は生き続けているのか。

 ●「生〇〇」の歴史と定義

 「生」ブームの始まりは、おそらく1988年に神奈川県の洋菓子店「シルスマリア」で発売された「生チョコレート」だろう。チョコレートに生クリームをたっぷり含ませ、軟らかい食感のチョコを生み出して大ヒットした。「生チョコ」というネーミングも同店が作ったとされている。それまでのチョコレートと比べ、ソフトでとろける食感は当時衝撃的だった。

 その後、2007年には花畑牧場の「生キャラメル」が一大ブームとなり、全国的に「生」スイーツが一つのカテゴリーとして認識されたように思う。

 現在まで生食パン、生カステラ、生カヌレ、生どら焼きなど、きりがないほど「生」と名づけてヒットした商品は多い。物価が高くなっている現在も、都内の生ドーナツ店は行列が絶えない。

 ご承知の通り、生といっても火が全く通っていないわけではなく、本来の「生」の意味とは若干異なる。主には、生地に生クリームを多く入れる、または加熱温度を低く設定したりなどの手法によって調理された商品で、小麦商品に多く見られる。商品の中心部分をトロリとさせたり、しっとりさせたりするなど、既存の同商材と比べて食感に違いがあるのが特徴といえる。

 ●日本人にとっての「生」とは

 日本人はそもそも「生」が好きだ。刺身を食べ、サラダを好む国なので、生というと新鮮で鮮度がよさそう、おいしそうという良いイメージを持っている。日本でランチセットに付きもののサラダ(生野菜)は、欧米では実はあまり食べられていないのだ。また、日本は生卵を安心して食べられる世界でも稀有な国だし、普段から生のものに慣れ親しんでいるといえるだろう。

 半熟卵の状態で提供する親子丼や卵焼きなどトロトロとした半生のおいしさを作る文化もある。そういった既にある経験値を合わせて、生には好意的なイメージを持っていると考えられる。また、最初のトレンドとなった生チョコ、生キャラメルあたりから、「とろ~り」「ねっとり」といった食感が「生〇〇」にはある、という認知もできており、食感に対する連想も既にある。そのため食べる前から「生」という響きに引かれるのだろう。

 さらに、トレンドになっていった「生」がつく商品は、特別感や大人のプチご褒美といった要素が加わっていると思う。「生」が付くものは、ほんの少々値が張っても仕方ない、という感覚がある。少しだけ高値だが、その分おいしかったり食感が特別だったり、映えたりするのだと。

 そもそも、日本は西洋のように水分を飛ばして作るパンやクッキー、焼き目のついた分厚いステーキなどの食生活ではなかった。軟らかく水分を含むご飯や、肉料理はステーキではなく箸でもつまめる薄く軟らかいしゃぶしゃぶ、すき焼きに改良していった。とろりと軟らかい食感を常に追求する「癖」が昔からあるのかもしれない。

 ●「生〇〇」の今後

 そう考えると「生〇〇」は普遍的であり、今後も新たなトレンドが生まれるかもしれない。さらに日本以外の国の人が、以前は決して食べなかった刺身をおいしいと思ったり、卵かけご飯にはまったりする時代がやってきたのだから、今後は「生〇〇」の独特な食感を海外の人も好むようになる可能性もあるだろう。

 (食の総合コンサルタント トータルフード代表取締役 メニュー開発・大学兼任講師 小倉朋子)

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