注目!ココが光る技あり店(3)FC加盟店舗編 屋台味ラーメン「よってこや」
屋台味ラーメン「よってこや」五反田東興ホテル店は、JR五反田駅前のビジネスホテル地下一階にある。加盟して運営しているのはこのホテルを運営する会社、東興産業(株)。このホテルでは、よってこや事業のほかにも、一階の割烹料理屋をコンビニエンスストアに業種転換して成功した経歴もある。積極的な異業種進出とその成功過程における光る技を見てみよう。
■FC加盟と独立の動機
「ホテルは装置産業ともいわれ、赤字部門があってもホテルとしての体裁を保つためにはやむをえないという考え方が一般的でした」
東興ホテルの業績不振を立て直すため、平成10年1月に系列会社の三和銀行(現UFJ銀行)から送り込まれた浅野勇夫社長は当時を振り返って語る。
会議や宴会のレンタルスペースとなっていた地下一階も収益力がなく、その有効活用を模索していた。その折、東興ホテルの事業多角化として、郊外のガソリンスタンドの跡地で、よってこやをやらないかという話が持ち込まれた。
しかし、事業多角化は、会社としての収益改善にはなるかもしれないが、ホテル事業の立て直しにはならないと判断、一時は見送る。しかし、このホテルは駅前、繁華街、背後に住宅地という好立地。浅野社長は発想を大転換して、周囲の猛反対を押し切り、当初のロードサイド出店ではなく、ホテルの地下一階での開店に踏み切った。
■店舗の運営手法について
ホテル内でラーメン事業を展開するのは業界内でも珍しい試み。しかし、浅野社長の新しいことにチャレンジする姿勢が社内のやる気を盛り上げた。とはいえ、本部研修を一ヵ月受けただけで素人のラーメン屋が成功するはずもない。
「最終的には店舗運営のカギは人が握る」そう判断した浅野社長は、辻調理師専門学校を出て、数社でイタリア料理や調理パンの開発などの外食産業を渡り歩く、ラーメン業界とは全く縁のない人物、竹田善博氏(現東興ホテル支配人)の招へいに乗り出す。「食材は違えど味、腕、努力、改善能力に優れた親分をおきたかった」(浅野社長)
こうして口説き落とされた竹田氏を店長にすえ、開店したホテルのラーメン屋は竹田氏の指揮のもと、評判が評判を呼び、月商一四〇〇万円近い数字を上げる、よってこやFC店のなかでもダントツの業績を誇る店になった。
開店当初、来店客の多さに本部の用意する店舗オペレーションが追いつかず、翌日の午前11時に開店するため夜の9時には店を閉めざるを得なかったほどだ。
■他のFCとはココが違う
五反田駅前にある東興ホテルの立地を、ホテルとしての立地ではなく、広く商業全般としての立地ととらえ、五反田駅の一日四〇万人近い乗降客数と繁華街、背後の住宅地に目を向け、ホテルという業態にとらわれずに地の利を生かした行動は、やはり浅野社長の再建請負人としての光る技と見ることができる。
しかし、一方で月商平均一四〇〇万円に上る店舗力は、立地だけでは維持できない。本部の予想を上回る来店客を継続的に満足させるために、現場では竹田氏が手腕を振るう。
「社長も言うとおり、ラーメン屋は一分間で喜びを作り、二〇分間でお客様に満足いただく。それが七〇〇円の価値に見合うこと」(竹田支配人)と言う竹田氏は、混雑に対応できない既存オペレーション、特に提供時間に徹底した改善を加え、本部パッケージでは一食当たり二分一〇秒で提供するオペレーションを工夫し、この店では六食を二分一〇秒で提供できるようにした。
これにより、混雑時の客の不満解消につなげ、混雑時もすぐ入れる店としての評判を作り上げた。
また、人材面でも、通常アルバイトを雇うにも最低でも四時間程度の雇用枠は必要になるが、この店はホテルの一事業部門のため、繁忙期はたとえ一時間でも、ホテル従業員を動員できる。
竹田氏はこの利点をフル活用し、非常に柔軟な人材投入を随時繰り返し、客に対して人員不足から来るサービス面での不満を与えないようにした。
これにより、高度なスキルを持つ人材の常時導入体制を手に入れ、飲食店が常に悩む人材調達コストの削減を果たした。
さらに、ホテルマンが3Kともいわれるラーメン店での業務をこなすとなれば、それなりの不満も出てきそうだが、浅野社長は月一度の社内表彰制度を導入し、会社に貢献度の高い個人を表彰するなど、従業員のモチベーション向上に向けたバックアップ体制も整えた。
実際、よってこや事業からの被表彰者も多く、現在ではホテル一体となって店舗運営に当たることができている。
この店では、浅野社長の常識にとらわれない事業判断と現場に対する後方支援と、現場を回す元店長竹田氏の手腕の見事な融合が、地域一番の繁盛店を生んだ光る技といえる。
■将来の目標・ビジョン
「ホテル内立地という特性から、女性のお客様も多く見られ、当ホテルの利用者の方にも喜んでもらえています。着任当初は不振だった当ホテルも、現在ではすっかり業績を立て直すことができました。いままでは業績立て直しに苦心してきましたが、これからは頑張ってくれた従業員が、それぞれ独立した店舗の店長になるなどして自己実現が図れるよう、多店舗化についても考えたい」(浅野社長)
((有)マネジメントプロセス経営コンサルティング部・田邉郁也)
◆筆者からのコメント
飲食店経営においては味の維持とブラッシュアップが必要ですが、この店ではさまざまなメニュー開発実績をもつプロフェッショナルの招へいに成功しています。また、積極的に既存オペレーションに改善を加えるなど、非常に自主的な運営をされているので安定感がありますが、今後は多店舗化による事業拡大によって責任あるポストを準備し、従業員のモチベーションの維持、向上を目指すことが求められるでしょう。
◆FC本部担当者からのコメント
「こちらの予想を上回る客数に、本部としてもうれしい誤算でしたが、既存オペレーションを見直すいいきっかけになりました。東興ホテル店さんにはこちらも学ぶことがたくさんあります」(イートアンド(株)よってこや事業部店舗運営マネジャー・福田氏)
●店舗データ 店名=屋台味ラーメン「よってこや」五反田東興ホテル店/所在地=東京都品川区西五反田二‐六‐八、電話03・3494・7670/店長=蔀勝則(しとみ・かつのり)/店舗面積=三〇坪/平均客単価=九二〇円/平均月商=一四〇〇万円
●本部データ 企業名=イートアンド(株)(旧(株)大阪王将)/所在地=大阪府大阪市中央区南久宝寺二‐一‐五、電話06・6271・1110/店舗数=大阪王将一一五店(直営七店、FC一〇八店)、よってこや八九店(直営一六店、FC七三店)
●モデル収支(テナントタイプ) 売上高五二九万円、原材料費一九六万円、粗利益三三三万円、人件費一一〇万円、水道光熱費三〇万円、地代二三万円、一般営業費二三万円、リース料五・七万円、ロイヤルティ(売上げの三%)一五・八万円