関西版:再び脚光「ビュッフェ」 「新日常」求めて健康志向を訴求
景気の戻りがささやかれるが、まだ暗闇の時代を漂っている関西の外食産業。顧客ニーズに対応すべく、業態のすそ野は広がる一方だ。
多くの業態を網羅する料理形式として顧客ニーズにこたえるのに効果的なビュッフェ形式が、関西でも再び脚光を浴びだした。「質より量」のイメージが強く、新鮮味に欠けていたが「おいしいものを少しずつたっぷり食べたい」という有閑熟年主婦の要望を満たし人気を集めている。
中でも「有機」や「減農薬」の健康志向にこたえる店舗が増え、ランチだけでなく夕食市場にも浸透し、新業態として参入する企業や他地区からの新規参入が増えてきた。
火付け役は福岡県にある(株)グラノ24Kの「野の葡萄」。身土不二をテーマに、地元で取れた食材を地元で消費する目的で生まれた「献立の前に食材ありき」のビュッフェレストラン。一昨年末、堺市の北花田ダイヤモンドシティに関西初上陸を果たした。
こだわり食材が食べ放題とあって連日満員のこの店は、平日でもオープン前の午前11時には100人以上が列をなし、ランチタイムだけで250~300人が来店する。九州の素材を生かしたメニューを中心に70種類の旬の料理と30種類の厳選された九州産焼酎バーも人気が高い。ビュッフェタイプでは常識破りの時間無制限も大きな特徴のひとつになっている。
そのエッセンスをくみながら、デパ地下惣菜で不動の人気を築いた(株)柿安本店は、客が野菜を中心に1kgを食すという「三尺三寸箸」を03年11月、HEPナビオに出店。若者向けのファッションビルに開店前から熟年主婦が行列を作ると話題を呼んだ。
多店舗展開を望む声が高い中、1年はテスト期間として開店を控え、その後全国展開を開始し、昨年末にはホテル日航大阪地下に関西旗艦店となる「三尺三寸箸ナチュレル」をオープンさせた。現在の10店舗展開をさらに拡大させ、今後3年以内にビュッフェ業態だけで売上高100億円を見込んでいる。
「まいどおおきに食堂」でおなじみの(株)フジオフードシステムも05年10月、NU茶屋町内に「浪花ご馳走ビュッフェ芋と大根」をオープン。今のところ多店舗展開計画はないが、得意の釜戸炊きご飯や目の前で焼き上げる卵焼きなどの家庭料理で人気を呼んでいる。
もちろん本家本元のホテルビュッフェも勢いは十分で、1964年に関西でバイキング形式を初めて紹介した大阪新阪急ホテルの「オリンピア」は、インパクトある食の提供に成功し、現在年間来店客数21万3000人、売上高7億5000万円を誇る。
ここは約3年前に大幅なメニューリニューアルを図り、従来のホテルイメージから視覚、嗅覚、聴覚を刺激する「食べるデパ地下」に一変。年4回季節ごとに変更するメニューは昨年4月に60種から100種類以上に増やし、圧倒的なリピーター率を上げている。ビュッフェでありながら和洋中のホテルシェフが目の前で作る本格料理に、出来たてアナウンスを流すことで客の競争心をあおり、誘導を行うことも他店やホテルでは考えられないユニークな手法。
(株)ノモスの「SOLVIVA・里山の食卓」も半径100km以内の近郊農家から取り寄せる有機、無農薬、減農薬栽培の野菜と、滋賀県にある自社農園で取れた有機米が並ぶ健康系ビュッフェレストラン。地産地消をコンセプトとして2店舗を展開しているこの店は、今後は新規出店をせずに棚田復興など原点回帰のライフスタイルを提案していく方針。
しかし、「景況感に比例して、昨年春ごろから客足は確実にすしや本格和食に戻りつつある」(がんこフードサービス(株)・小嶋会長)や、「三尺三寸箸は30店舗展開が理想で、2~3年してビュッフェ業態が成熟したら、次の業態を出していく」((株)柿安本店・赤塚社長)という声があるように、外食の安定業態は先が読みづらい。
外食への夢や特別感が薄れてきた近年は、ハレの日の「非日常」を求める声が少なくなり、普段の生活の延長にストーリー性のある「新日常」が求められている。