トップ対談:八百八町・石井誠二氏とワタミフードサービス・渡邊美樹氏(後編)

2001.03.19 224号 16面

‐‐居酒屋も含めたアフターファイブの業態で、繁盛店のポイントは何ですか。

渡邉 現在の消費者はお金がないわけではない。ただ、無駄なものにはお金を使わない。価値のあるものには払う。だから価値あるものを提供しているところが繁盛店になる。価値とは価格分の商品力。価格の高い安いは、バリューを決定する一つの要因でしかありません。

石井 私が考える繁盛店は「自分が行きたいと思う店」です。従来はその指標がブランドだった。これからは自分の考えや好みで店を選ぶようになるでしょう。

渡邉 石井社長の「かたりべ」という新業態について、詳しくお聞きしたいですね。

石井 「八百八町」を参考にされたのか、他社さんもウチとほぼ同じ内容になってきて、ほかに飯の食える業態を考えなければいけないと思って、かたりべを始めました。八百八町を突き詰めてゆくとナショナルチェーンと正面衝突しますからね。

かたりべはお客さまが会話を楽しむところです。来店動機は、時代が変わっても変わらない。「少しゆっくりと会話できるところに行こうよ」というのが第一です。食べたり飲んだりはついでの行為ぐらいに思っていい。また、大きなグループの集まりが少なくなり、三~四人のグループが集まりやすい店が支持される傾向にある。個人主義が鮮明化しつつあります。

提供コンセプトとしては、かたりべはノンフライを徹底してフライヤーを排除した。季節感のある新鮮な素材を、お客さまが手にとって、目の前で炭火で焼いて食べる。これってすごい感動だと思いませんか。郊外や田舎ではなく自分の家の近くで、その感動が味わえるわけですよ。

渡邉 疑問なのは、八百八町はチェーンにはできない手作りを低価格で出していたのに、今度は素材そのものを出すとなると、それこそチェーンの方が調達力は強い。かたりべは、大手チェーンと真っ向からぶつかるのではないですか。

石井 生の状態で確実に出し続けていくとなると難しいのでは。かたりべの業態を「すかいらーく」がまねたなら、ウチよりすごいものを作るかもしれないけど。隣に出店されても僕は負けないですよ。

渡邉 僕は回転ずしと焼き肉屋はやりたくないんです。最後はどうしても原価勝負になってしまいますから。

石井 かたりべのタイプになってくるとお客さまが一〇円や一〇〇円安いから行こうということにはならない。それよりお客さまのハートをどうやってつかんでいくかが勝負になってくるんです。

渡邉 客単価はどれくらいですか。

石井 三〇〇〇~三三〇〇円ぐらいです。

渡邉 やはり三〇〇〇円を超えると、価格の世界ではなくなりますね。店の雰囲気やサービスなどのトータルなものが求められてくる。素材勝負ではないということですね。

‐‐従業員の教育や、モチベーションを高めるための工夫についてお聞かせ下さい。

石井 僕はしつけだけでいいと思う。あいさつ、返事、後始末、これだけ。あいさつをちゃんとできる子がいればお客さまも気持ちがいい。「今日はこんなおいしいものがありますよ」とその子が言えば「じゃあ、もらおうか」となる。あとは報告、連絡、相談のホウレンソウ。これが店長から従業員にきちんと行き渡ることが販売力につながると思う。

渡邉 しつけといえば、最近の高校生はかなりのツワモノです。アルバイトへの名指しのクレームが急増している。その八割が高校生ですが、内容を見ると、非常識ぶりにお客さまは怒っている。例えば、お客さまと兼用のトイレを使っていて、お客さまが入ってきても、髪をとかしたまま譲ろうとしない。しかも立ち去ったあと、髪の毛が洗面台に散乱している。注意をすると、「あ、いけなかったんですね」と初めて気がつく。常識がかけ離れた人種が生まれてきたなと思う。この対策は大変です。

石井 僕と美樹さんは一五歳ぐらい違うのかな。美樹さんより少し下の世代で「新人類」という言葉があったけど、たぶん同じ視点じゃないかな。ふたまわり以上年が離れると全然感覚が変わってくる。だから僕は驚かないですよ。(笑)

渡邉 僕が年をとったのか(笑)。こんなことも知らないのかとがっかりせず、石井社長の言うようにきめ細かく飽きずに繰り返し教育をするということでしょうね。

‐‐外食産業の今後の課題は何でしょうか。「和民」は環境ISOを、八百八町でも昨年末にISO9000を取られましたね。

石井 あれは教育的効果が高くて、びっくりしました。社員の仕事に対する熱の入れ方がまるで変わりましたね。「世界的基準の作業マニュアル」と言われたことで、本人たちの認識が改まった。でも取得メンバーは、元運転手もいれば、脱サラのオジサンやオバサンもいて、六〇歳以上の人たちばかり。こういうスタッフがISOを取得したのですから、とてもすごいことですよ。

渡邉 環境ISOについても、いま働いている六〇〇〇人のアルバイトの子たちが、店以外でも意識できるようになってきた。店の問題だけでなく、社会に対する影響は非常に大きいと思います。

外食産業の問題といえば、これだけの少子化が進むと、労働力の確保が今後の課題になるでしょう。日本には外国人労働者を受け入れる体制がない。若者が減ったら、年配のリタイア組に働いてもらうしかない。

石井 ウチの店は、周辺住民をターゲットにしていますから、働き手も周辺住民です。働き手の主役は主婦。最近は五〇~六〇代の高齢者のお客さまも増えていて、その客層に気遣いできるのはやはり女性。ちょうど子育ての終わった三〇~四〇代の人たちがアルバイトに来てくれる。すばらしい人には時給一二〇〇円ぐらい払っています。

渡邉 大学が郊外に移っているので、山手線内の店舗では学生アルバイトが集まらない。学生の生活圏が変わってしまっている。今後のチェーン店は、良い学生アルバイトを確保したところが勝つ、確保できないところは負けるという、簡単な理屈になってきますよ。

石井 もう若者を捨てるしかない。(笑)

渡邉 石井社長は年配者の応援団長だから。(笑)

学生のアルバイト目的について時給は四番目です。一番の目的は「自分がそこにいて楽しい」こと。それに「自分の存在感がある」「仲間がいる」が続きます。お金を出せばバイトが集まるというのは大きな間違い。社内文化と有能な社員を持っているところにアルバイトが集まる。今後は労働環境を含めたブランド力の勝負になるでしょう。

若者にとって魅力的な職場とは、きちんとした教育システムがあって、自分のスキルアップを実感できるところ。あと仲間がいることです。ウチでも業績のいい店は、必ず店長がサークル長的要素を持っている。ハードな営業も彼らにとってはレクリエーションなんですね。いかにそうした空気をつくれるかです。

‐‐4月から食品リサイクル法が施行されます。そのあたりの対策はどうでしょうか。

渡邉 企業の環境対策へのコストは、今後確実に増えるでしょう。そのコストをどこが吸収するかというと、ゴミを処理してくれるところです。昨年、「KFC」さんと「モスバーガー」さんと共同出資で「ジャパン・リテイル・メンテナンス(株)」(JRM)を設立しました。環境コストの負担も競争の要因でしかない。そこで利益の薄い会社はつぶれていくしかないし、利益の厚い会社はそれに耐えられる。

石井 環境ISOも近いうちに取ろうと思ってます。ゴミの問題はこれまで以上に細分化する必要があるでしょう。

渡邉 ただ現実問題として、われわれは、農家との信頼関係が構築できたからリサイクルも始められるわけで、それができなければだれも引き取ってくれません。また運ぶために車を走らせれば二酸化炭素を放出する。それが本当に環境にいいのか、トータルで考えなくてはいけない。循環型リサイクルなんて言葉で言うほど簡単ではない。でも挑戦しようと思ってます。二〇〇四年4月にはオール・ゼロ・エミッションで、すべてのゴミをリサイクルできる方向で今動いてます。

石井 二〇〇四年には美樹さんのそれに乗りましょう。

◆つぼ八創業者・八百八町社長 石井誠二氏

◆いしい・せいじ=昭和17年東京都生まれ。気軽に入れる居酒屋のカジュアル化をテーマに、昭和47年「つぼ八」を札幌に出店。居酒屋チェーンブームの先駆者となる。四〇〇店舗出店後、社長職を退き、次世代ニーズに向けて地域密着居酒屋「八百八町」を出店。“元祖居酒屋”として業態の未来像模索に大きく貢献している。

◆(株)八百八町(東京都大田区東矢向二‐一一‐一〇、03・3757・0800)地域コミュニケーションを掲げて居酒屋「八百八町」、炭火焼き「かたりべ」を大田区内に計九店舗展開。近隣住民から圧倒的支持を得ている。現在はやりの住宅立地型居酒屋の草分け。

◆ワタミフードサービス社長 渡邊美樹氏

◆わたなべ・みき=昭和34年神奈川県生まれ。明治大学商学部卒業。経営者になることを決心し佐川急便で資金をため、つぼ八のFCオーナーを皮切りに事業を拡大。外食新時代の旗手として業界をけん引するほか、他社と共同出資でJRM(株)を設立し環境リサイクル事業にも取り組むなど、理想実現のために積極的に取り組む。

◆ワタミフードサービス(株)(東京都大田区西蒲田七‐四五‐六、03・5703・2255)居食屋「和民」一六六店舗を軸にカジュアルレストラン「T・G・Iフライデーズ」、イタリアン居食屋「カーラジェンテ」など多角的外食事業を展開。年商二四二億円(平成11年度)。

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