厨房のウラ側チェック(30) 牛肉と熟成とその科学(その6)

1993.06.21 30号 19面

今回は、熟成に関連する物差しとなりうる物質と測定について話を進めよう。

まず、第一番目として、解糖系の糖・グリコーゲンによるPH・乳酸について説明する。糖・グリコーゲンは解糖系において、ピルビン酸に変わり、そして、乳酸に変化する。乳酸が動物体内に蓄積すると、筋肉のPHが下がり、二四時間以内にPH5・5程度になる。また、PHの低下に伴いグリコリンスが作用できなくなり、PHの安定が確保されることになる。

この乳酸量が一定になってPHの安定を極限PHと言う。DFD肉のことを読者は覚えていると思うが、筋肉色素が赤紫色で保水性高い腐敗しやすい肉のこと。

このDFD肉の原因は、ストレスによって、グリコーゲンが急速になくなり、乳酸ができないうちにグリコリシスの異常に発生するものであることを忘れないでほしい。ちなみに、牛筋肉中の乳酸濃度とPH関係は、乳酸50μモル/㌘でPH6・5前後、乳酸100μモル/㌘でPH5・5程度になる。

第二番目の熟成物差しとしては、アクトミオシン間結合のタンパク質による硬さ、専断力および官能検査である。これは、私達が実際に食べた時に分かる硬さのこと。最初に、専断力の説明をすると、専断力は牛肉をサイコロ状にして、筋繊維と直角になるように悌刃状の物で上から力を加え、その時にかかった重量を数値化して表すが、その専断力と官能検査による柔らかさとは相関がある。

例えば、私の実験では、サーロインを摂氏0度の真空包装熟成方式で熟成させると、ステーキの官能検査では一四日目から柔らかくなった。

サーロイン以外の肉では、モモ肉を使用してみた実験の結果、熟成一六日目から柔らかくておいしい肉になっていた。もちろん、熟成条件は、サーロインと同じである。官能検査評価法は7点法で4が普通、1が非常に悪く、7が非常に良いとした。その時の専断力結果は、官能検査と同じような熟成の頃合いだった。

食品衛生コンサルタント

藤 洋

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