特集 女性主導でカクテル市場に活気 急増する女性バーテンダー

1996.12.02 116号 11面

カクテル人気が高まる一方だ。牽引役は不況化でも消費行動に衰えを見せぬ女性ユーザーである。

「コンパ、居酒屋ブームでライトアルコール(酎ハイなど)を覚えた女性ユーザーが、マニアックアイテム、オリジナリティーを志向する時期に差し掛かっている。今後、居酒屋ドリンクのキーワードは間違いなく“女性にカクテル”だ」

「つぼ八」チェーンの創始者で居酒屋ブームの火付け役となった石井誠治氏はこう指摘する。次世代の居酒屋コンセプトにカクテルは欠かせないというわけである。

石井氏の再出発である「八百八町」はそのコンセプトに基づく住宅立地型の居酒屋。カクテル百数十種類のラインアップで近隣主婦層の支持を獲得し、地域密着展開を大成功させている。「住宅立地」「女性」「ライトアルコール卒業世代」の共通項にカクテルを見事当てはめた格好だ。

石井氏の指摘通り、カクテルに注力する居酒屋チェーンの女性集客力は強まるばかり。八百八町と師弟関係にある「和民」チェーンもその一つ。“居食屋”を標榜する同チェーンは充実したカクテルラインアップで女性客を飛躍的に伸ばした。四年前にカクテル四二アイテムをラインアップしたところ、女性客比率が四〇%から五〇%に、カクテルの対売上げ比率は四%から八%に伸びた。いまだビール二〇%に次ぐビッグセールスを維持している。

「ビール一辺倒の客が減った。前半はビールで食事を楽しみ、後半はカクテルで会話に花を咲かせる女性客が増えている」という。居酒屋のカクテルは、豊かな彩りで雰囲気を明るくするマスコット的位置づけにあるというわけである。

「女性客に合わせてカクテルを飲む男性客も右肩上がり」というから、アフター5の市場形成とアルコール動向は確実にカクテルと女性の足並みで進んでいるといえそうだ。

一方、カクテルの本拠地バーではカクテルの大衆化をどうとらえているのか。

「プロのテクニックを鮮明にアピールする好機。大衆化に比例してバーテンダーの職人イメージが一層浮き彫りになる」とNBA(日本バーテンダー協会)、HBA(ホテルバーメンズ協会)ともに一致した見方。大衆化に好意的だ。

大衆化による女性ユーザーの急増に伴い、女性バーテンダーの登用や志願者が増えているのも大きな流れだ。会員数九〇〇〇人のNBAではいまや一割が女性会員。会員数一六〇〇人のHBAでも急増傾向にあり最近では会員名簿に性別の覧を設けるほどだ(かつては男性ばかりなのでなかった)。「一〇年前に比べ考えられない数字」(NBA事務局)と言う。

「女性ユーザーが安心して入れる店づくり、近寄りがたいバーテンダーのイメージを和らげる意味で女性の存在は大きい」とはNBA関東本部理事長の長谷川肇氏。「女性はまじめなコツコツ型が多く、基本を忠実に覚えるので成長も早い」と女性登用に積極的だ。

「女性バーテンダーがいれば女性客が入りやすい。女性は飲むだけでなく、必ず料理もオーダーするので客単価が上がる」とは、女性バーテンダーを起用する都内ホテルに共通する意見。女性ユーザー対策の女性バーテンダー起用には集客力以外にメリットが多い、というのが本音だ。

だが、女性バーテンダーの起用には懸念もつきまとう。女性であるだけに、ホステスと勘違いされるケースがままあるからだ。あがりの時間を聞かれたり、体に触られたりということがけっこうあるらしい。本人の職業意識と来客者のとらえ方にギャップが開き過ぎたりするのである。

「女性を積極的に起用すれば目新しさで繁盛するのは間違いないと思う。しかしホテルの立地条件を考慮すると展開に踏み切れない」。池袋駅に近いあるホテルの苦悩の弁である。

いずれにしろ、女性ユーザーと女性バーテンダーがカクテル動向のキャスティングボードを握っているのが現状。女性色めくカクテル市場、つくり手の素顔を追った(記事12~13面に)。

カクテル市場が女性主導で活気を帯びている。堅苦しさが先行した従来のイメージは色あせ、大衆化に向かう一途だ。カクテルがメジャーアイテムにランクアップした背景には、居酒屋を卒業した女性ユーザーの志向変化と女性バーテンダーの起用機運高揚がある。

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