うまいぞ!地の野菜(5)長野県現地ルポおもしろ野菜発見「すんき漬け」

1998.06.01 153号 13面

塩を使わず乳酸菌の発酵を利用した漬け物が長野県木曽地方にあると聞く。その名は「すんき」。

かぶら菜の一種である木曽菜の茎を漬けたもので、漬け上がると乳酸による酸味が感じられ、御嶽山麓にある村、開田、王崎、三岳では「酸茎(すぐき)」と呼ばれていたものがなまって、「すんき」となったらしい。

島崎藤村の「夜明け前」は「木曽路はすべて山の中である」の書き出しで始まる。木曽郡開田村は、この街道の街、木曽福島からさらに山間に入ること二〇㎞に位置し、標高一一〇〇mの高冷地にある。

晴れた日には眼前に標高三〇六七mを誇る霊峰・御嶽山がそびえ立つ。

開発は約二〇〇年前との記録がある。一年のうちで霜や雪がないのは7月、8月といわれるこの地で、水田を切り開いた中村彦三郎の偉業を讃える碑が建てられている。

「子供のころは何もなかったから、人が来ればそばを打って歓待したものです。ごちそうだったんですね」と中畑房子さん。開田村で生まれ育った越富江さん、千村敏子さんらと気恥ずかしげに笑う。

そばは今でも各家庭の味としてもてなしに使うが、毎日欠かさず食べるすんきは、客人には出さなかったという。あくまでも家庭の中でだけ食べる菜だったようだ。

「風邪をひいた時、食欲がない時、すんきを食べると元気が出ます」

「よその土地に行くとすんきが恋しくなる」

「ここで育ち都会へ行った子供たちは、季節になるとすんきはできたかと電話をよこしますよ」

食生活が大きく変わってきても、すんきの存在は大きい。

塩が貴重だった内陸部という地形的要因と厳しい気象条件から、生活の知恵として生まれるべくして生まれた産物のすんきは、いったいどんな風に作られているのだろうか。

この地方だけで栽培される赤カブの一種、開田村では開田カブ、大滝村では大滝カブが漬け物の材料となる。お盆過ぎに種を播き、9月下旬から少しずつ収穫し、本漬けは10月下旬から11月初旬。

四〇~五〇㎝に生長し収穫されたカブは、茎と葉を漬けるため、赤い根の部分を切り取り別々の用途に使う。葉っぱは熱湯にサッと通し、前年良い味だったものを寒風にさらしたものか、冷凍庫で保存した元種を葉の間に挟みながら桶に漬け込んでいく。

「すんきを作って何十年になるのに失敗することがあるんですよ。熱湯の通し方が肝心なんです」

発酵させる元種は山で採取できるリンゴ風味の実「ズミ」や山ブドウが使われる。もし発酵せず腐らせてしまったら、近所のすんき作り名人から良質の元種を分けてもらうことになる。

食べごろは11月から翌年3月まで。「季節を外すと独特の風味が抜けてしまいます。やっぱり寒い冬に凍ったものを取り出して食べるのが一番」

昔ながらの味噌汁の実にしたり、そのまま醤油と鰹節をかけて食べるほか、新しい食べ方として、すんきそば、海苔巻き、ラーメン、油炒めなども登場している。

昨年12月、生産者約一〇〇人を中心に「木曽すんき研究会」が発足、クセのある風味だが、気に入ると病みつきになるすんきが、にわかに脚光を浴びている。

■生産者名=(財)開田村振興公社そば工場、中畑房子(長野県木曽郡開田村末川四七四四、電話0264・42・3026、FAX0264・44・2335)

■販売方法=宅配取扱い期間10月中旬~11月末

■価格=一㎏一三〇〇円+消費税+送料

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