らいらっく人生学:タクシードライバーに教わった「脳内革命」
まだ空前のベストセラーになる前、「脳内革命」を斜めに読んだ。先見があったのではなく、知人に薦められたからだが、正しいか否かは別にして、一種、爽快な読後感があった。最初の二〇ページほどで、
『人間は自分にとって、楽しいこと、都合のよいことさえ考えていれば、脳内にモルヒネだか、エフェドリンだかが発生して、身体の機能がリフレッシュされるのか。それでガンや循環器系の疾患等、成人病が予防されることになる』
と了解されて、気分がよくなるわけである。後は、脳の生理学に興味のないものが読んでも、さして御利益があるとも思われない本である……が、『病は気から』『気で気を病む』といった言葉が、現代の医学でも実証されているようなところが面白かった。
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わが“人生学”についても、おなじことが言えるのではないかと、たまたま東京都内で拾ったタクシーの運転手と会話しながら考えた。
彼は七一歳になるのに、きびきびした動作、言葉遣い、しわの目立たないつやのある肌……どれをとっても壮年のごとくであり、
『毎日、仕事にでるのが楽しみでね。本当に楽しくて、楽しくて仕方ないんだよ。だってそうでしょう、客がいれば乗せ、客がなければ風景を眺めながら街をドライブする。余計なこと、何も思案する必要ないもん。いろんな人に会えて、新しい話が聞けるしね。兵隊から帰って、ずっとこの会社にやっかいになっていて、いまは嘱託だけど年金もあるし……』と屈託なく笑う。非番の日にはテニスで汗を流し、仕事のときは仕事のことだけを考え、遊びをすれば熱中し、他のことはすっかり忘れているという。
タクシーに乗って、このように楽観的な運転手に巡り会えるのは珍しい。勤務はきついのに収入は安い、腰痛は職業病だ。深夜勤務に加え生活は不規則、客商売で気を遣うから胃病になる、だいたい不景気で客は少ないし……と愚痴を聞くのが普通だろう。
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『あんたね、東京都下には七〇歳以上のタクシー・ドライバーが六〇〇〇人、八〇歳以上だって一六一人もいるんだよ。私も身体の続く限りやりたいね。金じゃないよ、楽しみなんだよ』
彼の挙げた数字が正確かどうか、ずぼらして調べていないけれど、事情があってやむを得ず働いている人も多いのではなかろうか。それとも、仕事好き日本人の典型がここに具現しているのか。
いずれにせよ、これは改めて強調するまでもなく、『気は持ちよう』という昔からの教訓にすぎないが、同じことでも楽観的に処すにこしたことはないと、ごく当然のことを当然のこととして思ったのだった。