食べ物の単位と漢字8 胡 【PR】

胡麻と胡座

 先日、とある観光地でイタリアンレストランに入った。私たち(妻と私)は、座敷に案内された。イタリアンレストランには珍しく、その店には座敷席があったのだ。私は床に座ると腰が痛くなるのでテーブル席を願ったのだが、空いてなかったのでしかたない。正座はきついので、足を崩して……、つまり、胡座(あぐら)を組んで座った。
 しかし、料理が届くまでの間、ぼ~っと「胡座をかく」ようなことはせず、今後の観光のスケジュールなどを考えていた。すると、ふと気がついたのだ。そういえば、「胡座」には「胡」の字が使われている! もしかしたら、この座り方は……、そうなのか!?
 古代の中国では、中国の北方・西方の民族を「胡(こ)」と呼んでいた。
   胡麻(ごま)
   胡瓜(きゅうり)
   胡桃(くるみ)
   胡椒(こしょう)
など、これらに「胡」が使われているのは、「胡」から中国に持ち込まれたことを示している。
 たとえば、胡麻の実は麻の実に似ている。「胡から伝えられた麻の実に似た食品」だから「胡麻」と呼ばれるようになったのだ。実際、インダス文明のモヘンジョ・ダロの遺跡からは胡麻が出土し、当時すでに胡麻の生産が行われていたことがわかっている。
 では、「胡座」については、どうなのか? 調べてみたところ、予想通り、「胡座」も「胡」伝来だった。ただし、「胡座」という表記が伝わる以前から日本では「あぐら」で座っていた可能性はある。
 そうこうしているうちに、パスタとピザがやってきた。私たちは正座も胡座もやめて、足を伸ばして食べたのでした。

星田 直彦(ほしだ・ただひこ)

1962年、大阪府生まれ。奈良教育大学大学院修了。中学校の数学教師を経て、現在、桐蔭横浜大学 准教授。実生活や歴史の話題を多く取り入れた数学の講義は好評である。幅広い雑学知識を生かして、「身近な疑問研究家」としても活躍。
おもな著書に、『単位171の新知識』(講談社ブルーバックス)、『図解 よくわかる単位の事典』(KADOKAWA)、『楽しくわかる数学の基礎』(SBクリエイティブサイエンス・アイ新書)など多数。
ホームページ:「星田直彦の雑学のすゝめ」
ブログ:「雑学のソムリエ」

胡の国から中国にごまがもたらされたのは紀元前、漢の時代と言われている。だが現在では、中国ではごまのことは芝麻(チーマー)と呼び、胡麻という言葉は亜麻のことを指す場合が多くなっている。日本でも中国料理の調味料として使われる芝麻醤(チーマージャン)はねりごま調味料、デザートとして人気のある芝麻球(チーマーチュウ)はごま団子のこと。呼び方は変わっても、中国でも、ごまが健康によい食べ物として愛され続けてきたことには変わりはない。

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