外食の潮流を読む(76)時短・酒なしの要請に従いながら、新しい商売の形をつくる居酒屋

2021.10.04 512号 11面

 東京・北千住に「ごっつり」という居酒屋がある。北千住駅東口すぐの所に立ち飲み店の「ごっつり」(5坪の1、2階)、西口から徒歩で5分ほどの商店街に「炭火焼ごっつり」(2階1フロア20坪)。どちらも青森食材を使った青森料理専門店である。コロナ禍前は前者が月商500万円、後者が700万円という繁盛店であった(北千住以外、南千住、浅草橋にも店舗がある)。

 ごっつりの代表、西村直剛氏は1967年11月生まれ、青森県八戸市出身。2007年に脱サラでホルモン焼きチェーンの加盟店となり飲食業に参入した。しかし、11年4月に富山県の焼肉店で食中毒事件が起きたことがきっかけとなり、加盟店から撤退した。

 ここから直営の居酒屋となった。売り物に迷った結果、「自分が得意としている商売をすればいい」とひらめき、12年に青森料理専門店に切り替えた。

 ごっつりの看板メニューは「サバ串」1本480円(税込み)、半身の鯖を4つに切り分け、ハラ、白身、ハラ、白身と串に刺したものだ。20年1月に東京ドームで開催された「ふるさと祭り東京」では10日間で8000本を販売した。時季に応じて「青森食材の夕べ」というイベント(会費6000~6500円)を開催。SNSで開催を告知すると50人の定員が30分で満席になったという。

 しかし、コロナ禍となった。ごっつりは時間短縮営業や酒類の販売停止など、都の要請にすべて従った。休業した期間も含めて売上げは9割減となった。

 そこで進めたことは、ECの商品製造やCK機能を担う施設をつくること。北千住の大きなマンションの店舗棟の中に17坪の物件を確保して「おそう菜のごっつり」をオープンした。この施設のポイントは「3Dフリーザー」を持っていること。これは、食品の品質を保ったまま素早く冷却する装置である。「庫内の高湿度化を実現し、食品の水分量を保ちつつ急速冷凍を行うことが可能」「高湿度冷気で包み込むように均一に急速冷却することから、食品の細胞にできる氷結晶は小さくいびつにならない」「食品の細胞にできる氷結晶が小さいことから解凍時間が短縮されドリップが出ない」というのが特徴だ。

 鮮魚を多く扱う「ごっつり」では仕入れによっては価格の変動が生じる。商機に波が生じたときにはロスを発生させることもある。3Dフリーザーはこのような仕入れの価格変動に対応でき、ロスの発生を抑えることができる。現在、コロナ禍前に得意としていたサバ串などのEC商品を開発中。さらに、マンションや近隣の住民向けに弁当・惣菜を販売して、顧客が増えてきている。

 酒類の提供禁止ということでも酒類を提供する飲食店は増えてきている。筆者はこの動向に対しての主張は持っていないが、要請に従いながら新しいことに挑んでいる飲食店の方が、変化に対応する能力を身に付けているのではないかと感じている。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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