外食の潮流を読む(77)快進撃する「やっぱりステーキ」が、DXでさらに繁盛店の進化を遂げた
飲食業界でDXが進んでいる。DXとITはどこが違うのかと思っていたのだが、自分がその現場にいて納得するようになった。ITとは効率化をもたらすものだが、DXとは豊かさをもたらすということである。
さて、沖縄発で1000円ステーキのチェーン「やっぱりステーキ」が今、快進撃を続けている。この価格でサラダ、スープ、ご飯が食べ放題。今風に言えば「無限」である。
やっぱりステーキを展開するのはディーズプランニング(本社/沖縄県那覇市、代表/義元大蔵)。2015年2月、那覇市の繁華街に3坪6席の規模で1号店をスタート。その後、居抜き物件などを活用した生産性を高める仕組みによって店舗展開を進めてきた。基本は「家賃比率5%」。一般的な飲食業の「家賃比率10%」より水準を引き下げ、その分、原価をかけるという戦略だ。それは家賃が安いところに店を出すということではなく、家賃比率5%を実現するエリアと物件を見極めるということだ。
その最新店が8月、東京都港区の芝大門にオープンした。全体では75店舗目で直営店である(9月5日現在で76店舗)。東京都下では、20年6月にオープンした吉祥寺店、21年2月の蒲田店に続いて3店舗目となる。
筆者はオープン初日に同社代表の義元氏に話を聞いた。同店のテーマはDXだ。「大手回転寿司チェーンで進んでいるDXを飲食業の小型店に役立てていきたい」と言う。
大きな特徴は非接触の要素を多くしたことだ。以下、顧客が同店に入店してからのサービスの仕組みを箇条書きで述べる。
(1)入店する前に「自動受付機」に1組の人数などを入力する。番号が付与され、自分の前に何人がウエーティングしているかがわかる。
(2)入店できる顧客を従業員が番号で呼ぶ。
(3)席に通された顧客は「タッチパネル」でオーダーする。
(4)顧客が注文した料理を従業員が顧客のもとに運ぶ。
(5)顧客がタッチパネルで会計をタッチすると、従業員がレシートを持ってくる。
(6)顧客はレシートを持って「無人レジ」で精算する。
「注文」は、既存店の場合「自動券売機」で行い、芝大門店では「タッチパネル」で行う。既存店の客単価は1300円だが、芝大門店は1800円あたりになると予想している。義元氏によると、その理由は「自動券売機は後の人からせかされている気分がして、注文する料理をゆっくり選べないが、タッチパネルだと、自分の席にいてゆったりとした気分で好みの料理を注文する傾向が見られるから」と言う。
さらに「サラダ、スープ、ご飯」の食べ放題では、芝大門店は顧客が席を立つ必要がない。既存店と比べると、食べ放題に顧客が集まるという「密」はなくなり、狭いフロアを顧客が行き交うことがない。安全・安心な食空間が担保され、ゆったりと食事を楽しむことができる。
「やっぱりステーキ」はいずれも繁盛店だが、芝大門店は今日的に繁盛し続けるための工夫が凝らされた店舗である。
(フードフォーラム代表・千葉哲幸)
◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。