食品値上げ、来年1~4月6800品超える 消費マインド冷え込み懸念
食品業界は来年も厳しい値上げ対応に追われそうだ。来春に価格改定を行う食品はすでに6800品を超え、今後も再値上げや再々値上げの動きが広がる見通し。昨年来、製配販3層は連携して価格改定へ努めてきたが、年内最大規模だった10月の値上げが12月にずれ込むなど「値上げ渋滞」の余波も一部続き、売価上昇による販売数量の減少も目立ち始めた。来年も食品含む生活必需品やサービスなどの物価上昇が続く中、消費の厳しい冷え込みが懸念される局面だ。適正な商品供給の継続へ向け、食品界では政府主導の賃上げや安売り規制などの強化を求める声も強まる。(篠田博一)
●賃金上昇が重要課題
昨春始まった食品値上げの動きは、今年に入り本格化。業界最大の商品情報データベースを運営するジャパン・インフォレックスによると、1~9月の価格項目変更件数は累計で2万4129件(前年同期比209.9%増)に及ぶ。10月以降もビールや清涼飲料、市乳製品含む年内最多数の価格改定が実施されたことから、22年の食品値上げラッシュは未曽有の規模になると想定される。
一方、来年1~4月の食品値上げは、本紙調べで20日現在、6806品(家庭用・業務用、減量値上げ含む)になることが分かった。今年中にほぼすべてのカテゴリーが値上げを実施したため、再値上げや再々値上げが主体を占め、そのほとんどが長期化する原料やエネルギーなどのコスト高騰に起因する。
ここまでの値上げ影響について「店頭価格の上昇で全般に販売数量が落ち込んでいるが、改定上昇率が売上げ減少分をカバー」(複数の食品卸)とする声が多い。10月のビール値上げでは前年の3割を超える仮需が発生した卸もあり、足元の売上げ増に大きく寄与する要因もみられた。
ただ、いまだに小売・卸間で今秋の大規模値上げの決着がつかないケースもあり、「メーカーの値上げ日を超えた場合の値差補填(ほてん)の交渉など、価格改定業務に相当な時間を取られている」(酒類卸)、「交渉の際の競合店の値上げ調査や店頭売価の収集といった依頼が増え、今後も続きそうだ」(大手食品卸)など、「値上げ渋滞」がもたらした業務負荷の増大は容易に解消されない状況のようだ。
来年も値上げラッシュの対応に業界が追われる中、最大の懸念材料は物価上昇と節約志向の進行による消費マインドの冷え込みだ。「値上げ回数を重ねるたび、数量ベースの下落幅が広がっている」(低温卸)との消費傾向もみられ、年明けから値上げが相次ぐ酒類など嗜好(しこう)品が厳しい影響を受けるとの見方も強い。足元では行動制限撤廃による人流復活でSM店舗における買い上げ点数が減少するなど、値上げとは別のマイナス要因も出てきた。
食品界にとって自助努力による需要喚起やコスト削減が不可欠な局面だが、最重要となるのは物価上昇に見合った所得環境の改善だ。このため「政府主導で酒類のような公正な取引制度を各カテゴリーで進めれば、企業の賃上げにつながってくるのでは」「企業や業界の努力だけでは限界で、政府を絡めた還元対策の拡充などが必要」(複数の卸)など、政府の介入による事態の改善を望む声は強い。10月末、政府は「物価高克服・経済再生」を目指す総合経済対策を打ち出したが、喫緊の課題である賃上げをどう実現するか。今後の食品価格と消費の先行きに大きく影響してきそうだ。