タイの塩分規制論議に決着 高塩分食品に課税へ
タイ保健振興財団では女優らを使った減塩キャンペーンをこれまでもたびたび実施してきた=提供写真
前財務相による反対で宙に浮いた形となっていたタイの高塩分食品に対する規制論議が決着する見通しだ。民政復帰後の7月に発足した新政権のウッタマ現財務相が、財務省物品税局が進めてきた国民の健康増進のための税制見直し案について容認する意向を固めた。新政権は国民の塩分摂取量を抑制していく方針を打ち出しており、近く税法改正にも着手する。日系企業も多く進出しているタイの食品企業の多くは、すでに規制強化を前提とした体制を整えており、大きな混乱はない見通しだ。
物品税局の報道官が明らかにした。それによると、塩分規制は、肥満の原因とされる糖分規制、心臓病や血管疾患の原因となりやすいトランス脂肪酸規制に続く国民の健康増進策の第3弾。タイでも欧米式の食生活が広がり、がんや循環器系などの疾患患者が多くなってきたとして、塩分の摂取を規制する必要が訴えられてきた。
新政権は、国民の高血圧患者を2025年までに現在の4分の3とする健康増進策を打ち出しており、そのためには塩分摂取量を1人当たり3割減らす必要があると試算している。摂取する1日当たりの塩分も2000mg以下に抑えることが条件になるとして、こうした目標値を背景に塩分の含有率に応じた新しい税体系を構築していく見通しだ。
ただし、食品一律の増税には国民の強い反発も予想されることから、日々の食事に必要なナンプラー(魚醤)や醤油、食塩などの調味料については除外する方針を固めている。子ども向けのスナック菓子についても影響が大きいとして非課税とする方向で検討を進めている。小売店舗で販売される即席麺や冷凍食品、缶詰などから適用を始める考えだ。
一方、糖分とトランス脂肪酸については法律による規制がすでに始まっており、このうち最も関心の高かった清涼飲料などの糖分については含有量に応じた6段階の課税が実施されている。含有量が多いほど課税額が高くなる仕組みとなっており、今後23年まで4年をかけて段階的に増税していく方針だ。
1日付で行われた2回目の増税の結果、飲料100ml当たりの糖分含有量が18g以上の飲料については5バーツ(1バーツ=約3.5円)が新税として課税され、以下、14~18g未満のものは3バーツ、10~14g未満が1バーツなどと改定された。これによって最大で20億バーツの税収増となる見通しだ。
タイの塩分規制をめぐっては、民政復帰前の暫定軍事政権で民間銀行出身のアピサック前財務相が効果が乏しいなどと反対の意向を示し、物品税局の施策が凍結される事態に追い込まれていた。関係者によると、背景には総選挙前に国民の強い抵抗が予想される増税は実施すべきではないとの判断があったとみられている。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)