新型コロナ:タイ日本食業界、存続の危機に

ニュース 外食 2020.04.03 12034号 03面
ほとんどの飲食店が閉まったタニヤ通り=3月27日、バンコクで小堀写す

ほとんどの飲食店が閉まったタニヤ通り=3月27日、バンコクで小堀写す

飲食店の営業の中心が宅配となったことでバイク配送業者の需要が高まっている=同

飲食店の営業の中心が宅配となったことでバイク配送業者の需要が高まっている=同

店舗総数3637店(2019年時点、日本貿易振興機構まとめ)を数えるタイの日本食レストランが存続の危機に立たされている–。新型コロナウイルスの感染拡大により、3月22日から始まったバンコク首都圏の一斉封鎖(営業禁止)。美容室やマッサージ店、スパ、映画館、ゴルフ場といった生活に直結しない施設だけではなく、レストランや商業モールまで対象とされ、26日に発令された非常事態宣言によってタイ全土に広がった。期限は4月30日まで。政府は延長の可能性も示唆しており、財政的に耐え切れるかどうかが存続の鍵となる。

3月21日土曜日夜。日本食レストランが林立するバンコク・スクンビット地区の飲食街では、日付が変わる直前まで食事を楽しむ日本人客の姿が目立った。普段なら日本食に舌鼓を打っているはずのタイ人客は、日本でのウイルス拡大などを警戒して既に足を遠ざけていた。この日、店に遅くまでとどまっていたのは、翌日から始まる一斉封鎖を前に、店主らを激励しようとやって来た日本人の常連客たちだった。

翌朝、バンコク首都圏の飲食街は旧正月の朝を迎えたように静まりかえっていた。人通りはほとんどなく、どの店でも椅子や座布団がテーブルの上に片付けられたままとなっていた。その中でも午前中から店を開け、従業員らが出入りする飲食店が少なからずあった。一斉封鎖の例外として残された弁当の宅配や持ち帰りを準備する店々だった。

今やタイにある飲食店の大半は、宅配と持ち帰りのみに、いちるの望みを託している。日本食レストランでも変わりはなく、付加価値税免除、ビール1本無料、大盛り無料、激安おつまみセットなどといったプロモーションで客の関心を引こうと躍起だ。夜間が中心だった営業時間も昼食時から夕食後までと変更され、1品だけでも配達に応じる。わずかな売上げでも、今では貴重な収入源だ。

開業15年目を迎えた沖縄料理「金城」でも事情は同じ。宅配と持ち帰り営業の実施を会員制交流サイト(SNS)などで毎朝宣伝。客からの注文を待つ。配達の申し込みがあれば提携先のバイク配送業者に依頼し、温かいうちに届ける。持ち帰りの場合は、客に不安を与えてはいけないと2m以上の距離を保って注文を聞く。手渡しはせず、受け渡し用のテーブルの上に置いて引き取ってもらう方法にも切り替えた。店内のテーブルやドアはもとより、客が閲覧するメニューも全ページをこまめに殺菌する念の入れよう。それでも売上げは普段に遠く及ばない。

一斉封鎖は予告なく突然に表明された。このため多くの飲食店では対応が取れずに、従業員の一時帰休や解雇を命じるケースが少なくなかった。その結果、やむなく田舎に帰郷しようとする乗客らで長距離バスターミナルが混雑するなどの混乱が生じた。ウイルスの拡散による新たなクラスターの出現が懸念された。

こうした事態に、タイ政府もようやく重い腰を持ち上げた。まず検討を開始したのが失業手当の支給だった。タイには日本のような失業保険制度はなく、仕事を失えばたちまち無収入に陥る。創設する手当は、1人当たり月額1万5000バーツ(約5万円)を上限に、給与の半額の支給が検討されている。期間採用者や個人事業者についても1人当たり月5000バーツ、向こう3ヵ月間支給する。

失業手当のほかに、失業した人向けの生活費の低利融資も行う。2019年度所得税の控除幅も拡大する。一方、事業所向け支援も行う。中小企業開発銀行が1事業所当たり最高で300万バーツを融資する計画だ。年内いっぱい受け付ける方針で、未曽有の危機を乗り切るとしている。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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