広がる新型コロナ撃退の輪 タイで食事無償提供の店が急増
新型コロナウイルスの感染拡大によって飲食店や日用品店、大半の商業施設が営業停止を命じられたタイで、仕事を失うなど収入への道を閉ざされた人が後を絶たない。将来を悲観しての自殺者も少なくなく、政府は経済封鎖の解除の時期に頭を悩ましている。こうした中、街では食事や生活物資に困った人を救おうと、無償の炊き出しや配給などが民間人らの手で続けられている。
TVタレントで北部ターク県出身のシリポーン・ユーヨートさん(48)は新型コロナウイルスの感染が深刻化して以降、実家の敷地を開放して食事や飲料などの提供を続けている。
毎日、午前中から多くの住民らが列をなし、感謝の言葉とともに受け取っていく。遠く、近隣の県から配給を受けに来る人もいるといい、特に大衆料理の「パッタイ」(タイ風やきそば)が人気だという。
タイ人のコミュニティーだけではない。バンコクのスクンビット・ソイ101/1にあるカナダ人オーナーのハンバーガー店「ビッグバーガー」では、午後5時から失業者のために無料でハンバーガーの提供を行っている。西洋人の定住者も少なくないエリア。老後を南国で暮らす人もいて、「少しでも支えになれば」と続けている。
タイには地域全体で社会的弱者を助け、支え合おうという伝統的な文化がある。その拠点となるのが、各地に点在する寺院だ。ドンムアン国際空港の向かいにあるドンムアン寺でも、食べることさえ困難になった人々向けに無償の炊き出しが行われている。これまでに配布された食事は計数万食。列を待つ人たちが密着して感染リスクにさらされないよう、行政がソーシャルディスタンス(社会的距離)を指導する姿も見られる。
民間の大手企業も街に繰り出し、食料の無料配布を行っている。現地電力会社のガルフ・エナジー・デベロップメントはバンコク都内で10万食以上を提供する方針だ。他のタイ大手財閥も、食事のほか消毒用のアルコールやマスクなどの無償供与を街頭で続けている。
こうした動きに乗り遅れまいと、政治の世界でも各党が先を競って各地の有権者らに食事などを届ける。
このうち、現政権に批判的なタクシン派のタイ貢献党では、幹部のスダラット下院議員が娘とともに有権者宅を一軒一軒回り、サバイバルバッグと銘打った生活物資を届けている。
一方、与党入りした民主党のジュリン党首らは予算120万バーツ(約400万円)をかけて食事などを配布して回っている。
タイの新型コロナウイルスの新規感染者は一時の3桁から1日当たり20人以下にまで減少しているものの、政府は第2波を警戒して現状の維持に躍起だ。規制の解除についても感染者が少ない地方から徐々に開始していくものとみられ、人口最多を占める首都圏についてはなお時間が必要とみられている。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)