新型コロナ:食品ロス削減に関心 相乗効果生む宅配・持ち帰り タイ・バンコク
新型コロナウイルスの感染拡大により、東南アジアのタイでもあらゆる飲食店の営業が規制され、自宅で食事を取る機会が大幅に増えた。現在は一部で飲食店内での飲食が許されるようになったが、それでも宅配や持ち帰りをして帰宅を急ぐ人が多い。コロナ前まで日本食レストランだけでも4000店近くがひしめき合うほどのグルメ地帯だったタイ・バンコク。それがすっかりの様変わりだ。取材をしてみると背景には、かねて課題とされてきた食品ロス問題などとの絶妙なマッチがあった。
タイで飲食店での店内飲食が解禁されたのは3日のこと。約40日にわたった忍耐から開放され、飲食店関係者はあらためて自由をかみしめた。だが、酒類の提供は依然として禁止されており、ソーシャルディスタンス(社会的距離)を保つため、客と客の間は最低1m以上は保たなくてはならない。家族連れの客が、1テーブルに1人ずつ案内される様子がTVなどで繰り返し放映されている。
こうした不便さもあるのだろう。飲食店から弁当などを宅配あるいは持ち帰りする人は今なお後を絶たない。そこでいくつかの店舗で話を聞いてみると、自宅で食事をした方が余った分を冷蔵庫で保存し翌日に回すことができるなど、家計にも良いという予想外の答えが多いことに気付いた。
バンコク東郊のラムカムヘン地区に住む会計事務所勤務のヌイさんは、その日もお気に入りの日本食レストランから食事を持ち帰った。母親と2人分にしては多めの3品を注文し、自宅から持ってきたという容器を差し出す。15分ほどで用意ができるとマスク姿で家路に就いた。感染を気にせずに食事できるのでストレスも感じない。
飲食店関係者が共通して指摘するのは、宅配や持ち帰りが増えた分、当然に店内での食品ロスが減ったという点だ。タイ健康促進基金のまとめによると国内の飲食店や小売店から排出される食品ロスは1人当たり年間254kg。グルメ大国のフランスや米国を大きく上回り世界トップレベル。年間1700万t余りのまだ食べられる食材がゴミとして捨てられている。
所得が上昇し、健康や環境への関心がこのところ高まりを見せるタイの消費者たち。「新型コロナをきっかけに食品ロスに対する意識が高まってきたのではないか」と飲食店関係者は一様に見ている。保存しやすい持ち帰り用の容器を店に持ち込むのも、こうした意識の表れだというのだ。
となると、これまでの経営を根本から検討し直さなければならないとするのが、こうした飲食店や食品食材を提供する小売店の経営者たちだ。従来のような食品ロスをあまり気にかけないメニューの開発や提供では客は魅力を感じない。健康にも優しく、環境にも優しい店づくりが問われている。新型コロナの惨禍は、こんなところにも影響を及ぼし始めている。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)