新型コロナ:タイ 失業者に向け水耕栽培技術など職業訓練
世界的な拡大が続く新型コロナウイルス感染症だが、東南アジアのタイでは5月に入りほとんどの日で新規感染者が1桁となり、ウイルスの封じ込めにひとまず成功した形だ。国境からの侵入など第2波を懸念する声も残るが、タイ政府は監視を厳しくしながらも“コロナ後”を見据えた施策も模索する。その一つに、1000万人に上ることが確実な失業者を対象とした職業訓練がある。
タイには6000とも7000ともされる日系企業をはじめとした多数の外国企業が進出し、成長する経済のけん引役を担ってきた。その多くは自動車や電気関連などの工業品生産だが、これら産業を支える飲食や各種生活関連の第3次産業も少なくない。そのような市場では、巨額な設備投資を必要としないことから外資をはじめタイ資本の進出も盛んだ。
タイ労働省職能開発局は新型コロナウイルスの感染拡大によって失業した国民を対象に、進出が容易なサービス産業での雇用確保を促進するため、最大8000人の受講者を見込む職業訓練を実施することにした。計画実施案によると、工業団地に勤務する人たちなどを狙った小規模コーヒー店の経営や、バリスタ(エスプレッソコーヒーを扱う職人業)、デザート生産といった飲食技術、タイでも需要が拡大している水耕栽培技術などの訓練がその柱。
外国語の取得やコンピューターの操作法といった一段上のスキル向上メニューも用意するが、当面は技術の取得に時間も費用もかからない「食」に狙いを定めた募集を行う。自動車部品の工業生産などでは長年の熟練の技が必要な一方で、身近な食については短期間で育成ができるとの判断からだ。
タイでは新規感染者の報告が減少し経済の復興が議論されるようになったが、最大のネックと懸念が前年比で最大10%もの落ち込みが確実視される経済力と失業者対策だ。すでに700万人を超える人々が仕事を失い、政府から支給される1ヵ月5000バーツ(約2万円、向こう3ヵ月間まで)の給付金で飢えをしのぐ。就業は喫緊の課題となっている。
政府では、失業者に対する職業訓練を実施していく一方で、タイで事業を行う国内外の企業に対しても訓練を重ねたこうした人材の採用を求めていく方針だ。復興の道は身近な人々の「食」から。日系企業にも参入の余地はありそうだ。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)