タイ 酒類販売、非常事態宣言下で強化される規制
新型コロナウイルスによる非常事態宣言下にある東南アジアのタイで、ビールやワインなどの酒類販売に対する規制が強まっている。7月21日には北部チェンマイにある日本料理店で定額飲み放題のプロモーションの告知をインターネット上に掲載したところ、5万バーツ(約17万円)の罰金が科された。一方、コロナ対策から始まったオンライン上での酒類販売についても禁止をする方針が決まっている。売上げも落ち込む中、販売業者や輸入業者は頭を抱えている。
仏教徒が9割以上を占めるタイには、その教えから酒類販売の在り方や広告を制限する法律や首相府令が存在し、かねて規制の対象ではあった。釈迦(しゃか)の誕生日であるウィサーカブーチャー(仏誕節)や僧が仏教の修行のために寺にこもるカオパンサー(入安居)など年に数日ある仏教関連の日と選挙投票日の前日は、一律に酒の販売ができなくなり、今も厳格に運用されている。
一方で、観光立国を進める政策からそれら以外の適用については柔軟で、外国人が多いホテル内や一部の観光地での販売、広告などについては野放しに近い状態が続いていた。少なくとも、個人経営や小規模飲食店が個人的にアップするプロモーションなどの告知が、違法な広告として摘発対象となることはほぼなかった。
ところが、3月下旬に非常事態宣言が発令され、飲食店やホテルなどでの酒類販売が一斉に禁止されるようになると、かつての運用方針も見直されるようになった。6月15日に飲食店内での飲酒は解禁されたものの、事後も法令に違反した者には厳しく罰則を科す旨の警告が出され、摘発が行われるようになった。
冒頭のチェンマイの事例もそうした一つ。新型コロナで減退した消費を呼び起こそうと、499バーツでのビール飲み放題の告知をソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)にアップしたところ、警察から広告規制に違反しているとおとがめが。罰金を支払えば営業停止にはしないとのことから店主は渋々納付をしたが、同情するコメントが多数寄せられた。
酒類販売に対する厳格な姿勢は、現政権の前身である軍事政権下から徐々に始まった。2015年には日本食居酒屋チェーンのメニューにアルコールの写真が違法に掲載されているとして警察が摘発する事件があり、最終的に46万バーツが店側に科されている。それ以来の厳しい運用が、民政復帰後の今となって再現したことになる。
酒類規制は、飲食店だけにとどまらない。政府は7月上旬、酒類のオンライン販売について禁止とする首相府令の発令を承認。新型コロナの世界的な感染がいまだやまぬ中、無秩序な酒の流通が感染リスクを高めるとの判断からだった。
だが、オンライン販売は、店頭での販売を制限されるなどした飲食店や卸売業者、輸入業者らが苦肉の策として考案した窮余の策。影響は小規模経営になればなるほど深刻で、政府の方針に対する不満が日増しに高まっている。
今のところ、酒類販売を目の敵とする国の方針に変更はないが、消費や輸入の低迷もあって国際的な影響も少なくない。事業関係者らはその行方を辛抱強く見守っている。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)