タイで昆虫成分配合食品の開発進む 国も販路開拓支援
東南アジアのタイで、官民挙げて昆虫を原材料とした食品の開発が進んでいる。商務省は農家の収入拡大につながるとして、タイが自由貿易協定(FTA)を締結する諸外国に呼び掛けて輸出を拡大したい考え。
一方、メーカー各社も売上げの向上につながる可能性があるとみて、新商品の開発に力を入れる。ペットフード向けに製品化し、温室効果ガスの発生が少ない完全循環型の生産体制を構築しようという動きもある。
商務省貿易交渉局は、新型コロナの感染拡大で影響を受けた国内の食品メーカーを救済する一つとして、昆虫を原材料とした食品の販路拡大を挙げる。タイや文化的に近い隣国ラオス、カンボジアなどでは、古くから昆虫そのものを食す習慣があり、その調理方法も多彩に存在する。
日本にいるカナブンにも似たコガネムシ科の昆虫は、ラオスではサッと素揚げしてスナック菓子のように食べる。筆者も現地で食べたことがあるが、ポップコーンよりも香ばしくてクセがなく、老若男女問わずに日常のおやつとなっている。あの昆虫菓子を応用すれば、日本人も間違いなく食べられる。
こうした伝統とノウハウを利用して、昆虫食文化のある中国市場やアジア一円、さらには欧米など新興市場にも販路を拡大しようというのがタイ政府の考えだ。タイは世界18ヵ国・地域とFTAを締結し、こうした国や地域への輸出には関税がかからない。すでに受け入れられやすい昆虫スナックなどの商品開発と国内販売を始めており、来年にも本格輸出したい意向だ。
昆虫の持つタンパク成分を抽出して既存の食品に配合するという商品開発も行われている。食パン生産を手掛けるタイのNSLフーズは、コオロギのタンパク成分を生地に練り込んだ全粒粉パン「ナチュラル・バイツ」を開発。大手流通チェーンなどで販売を開始した。通常の3倍近い高プロテインをうたったブランドパンで、コロナ禍による健康志向の高まりから注目が集まっており、売上げも上々だという。
タイ水産大手タイ・ユニオン・グループは昆虫食市場の将来性に着目して、スタートアップ企業のオルガフィールドに出資した。オルガ社は、アメリカミズアブという昆虫の幼虫から採取したタンパク質を使ったドッグフードを製品化。注目すべきは幼虫の餌で、食品メーカーから排出される野菜ごみなどを使っている。
この方法によれば、幼虫の飼育過程で排出されるCO2は、牛を飼う場合の25分の1。使われる水の量も1万分の1となるといい、地球環境の維持にも極めて効果的。新たなごみも排出しにくいことから完全循環型の生産体制につながるとして、人間が食べる食品への応用にも役立てて行く方針だ。
(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)