タイで広がる波紋 食品などへの大麻「解禁」 市場はおおむね好意的

総合 ニュース 2022.07.04 12426号 05面
大麻「解禁」について説明するアヌティン副首相兼保健相=本人の公式ホームページから

大麻「解禁」について説明するアヌティン副首相兼保健相=本人の公式ホームページから

●年齢制限なく制度上の不備も

東南アジアのタイで6月上旬に「解禁」となった大麻をめぐって波紋が広がっている。医療や美容・健康を目的に食品などへの添加や栽培が合法化されたのだが、年齢制限がされないまま規制が撤廃された上に、車を運転中の使用を禁止する法令がないなど制度上の不備が指摘されているのだ。摂取による死者や中毒者も直後に現れた。一方で、大麻を飼料に加えることで抗生物質の使用量が減り、免疫力の高い鶏肉が得られるなど副次的な思わぬ効果も。賛否両論渦巻く「解禁」直後の市場動向を追った。

大麻と大麻成分が0.2%以下のアサ科植物ヘンプを麻薬法の「第5種麻薬」から除外する保健省令が発効した9日、チュラロンコーン大学など王立大学の医師らの有志グループは「若者、とりわけ10歳代の未成年の乱用が懸念される」とする声明を発表。大麻「解禁」に懸念を示した。

憂慮は直ちに現実となった。省令の発効後間もなく、16歳と17歳の少年が大麻の過剰摂取の症状で病院に搬送されたのだ。急激な心拍数の増加と動悸(どうき)に苦しみ、人工呼吸器が付けられたという。さらには、バンコクの51歳の男性が大麻を吸引中に胸の痛みを訴え病院に運び込まれたが、心不全で死亡する事故も起こった。

これを受け保健省は、17日付で新たな省令を官報で公告。使用を可とした大麻とヘンプについては20歳以上に限るとする内容に変更した。バンコク都も、都内にあるすべての教育施設を対象に「大麻禁止ゾーン」に指定し、施設内で販売する食事や飲料への大麻やヘンプの使用を禁じる措置を講じた。車を運転中の使用の基準についても検討が進められている。

一方で、市場では「解禁」をおおむね好意的に受け止めている。さまざまな食品メーカーが大麻成分を含んだ新商品の開発に力を入れている。リラックス効果をうたった健康・美容食品や飲料、栄養ドリンクなどが次々と考案され、市場投入が本格化している。異業種からの参入も多い。

大麻やヘンプの繊維を、食品の包装材やバイオプラスチックの原料に使用する動きも広がっている。植物由来のこうした利用は脱酸素の動きとも重なり、エネルギー会社などが新事業として重要視している。国内で使用されるプラスチック容器や袋、ストローなど代替品としても注目を集めている。

畜産業界からも関心が寄せられている。北部ランパーン県の養鶏農家では、抗生物質の代わりに大麻成分を鶏に与えたところ、抗生物質を超える高い免疫力を取得。おいしく健康にも良いタンパク質として引き合いが増しているという。他の家畜でも検証が進められている。

政府も市場開拓に積極姿勢を見せる。「解禁」に合わせて保健省は東北部ブリーラム県で行われたサーキットレースの会場で、大麻の苗木100万本を無償配布するキャンペーンを実施。イメージの払拭(ふっしょく)に務める。0.2%以下のアサ科植物ヘンプが合法となったことで、合法化以前に刑事犯として身柄を拘束された人々の釈放も行う予定だ。

ただ、年齢制限と同様に不安が完全に払拭されたわけではない。「解禁」を見据え、食品メーカーでは新商品の開発が進められてきたが、大学の付属機関などでこれらをランダムに検証したところ、3割近い製品から基準を超えた大麻成分が検出されたという。このため保健省は、通告のあった商品やメーカーなどを個別に審査し、違反があった場合は厳正に処分する方針だ。

(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)