タイ 食品宅配の競争激しく コロナ感染収束傾向で飲食店が全面再開

外食 ニュース 2022.11.04 12490号 03面
食品宅配サービスは激しい競争の時代に突入した=9月20日バンコクで。小堀写す

食品宅配サービスは激しい競争の時代に突入した=9月20日バンコクで。小堀写す

新型コロナウイルス感染症による都市封鎖(ロックダウン)の期間中、急成長したタイの食品(食事)宅配サービスが岐路に立たされている。感染拡大が収束傾向に転じ、飲食店の営業が全面再開となったためだ。一部にはなお警戒を強め自宅での巣ごもりを続ける消費者も少なくないが、すっかりストレスのたまった人々はレストランでの食事を好んでいる。加えて、ウクライナ戦争などによる原油高からくる燃料費の高騰も影を落とす。過度なプロモーションの実施や新たな業務提携など競争は激しくなっている。

宅配専用アプリ「1112デリバリー」を展開する外食大手マイナー・フード・グループは、食品宅配市場の成長に陰りが見え始めたことから、9月から10月にかけて新たなプロモーション「ベスト・プライス・ギャランティー」を実施中だ。直訳すれば「最適価格保証」。自社のアプリから注文した商品の値段が、別のアプリや宅配サービスで注文した時よりも高かった場合、次回注文時の金額から最大100バーツ(約380円)を割り引くといったものだ。一品料理が100バーツほどからある中、かなりの大盤振る舞いだ。

同社が扱うメニューは、人気洋食店の「シズラー」やハンバーガーチェーン「バーガーキング」、ピザチェーン「ザ・ピザ・カンパニー」といった人気商品ばかり。ブランド力を背景に、先の見えにくくなった食品宅配市場を積極姿勢で攻略していく方針だ。

大手商業銀行サイアム商業銀行傘下のパープル・ベンチャーズが手掛ける統合アプリ「ロビンフッド」は食品宅配市場に参入後、生活用品の宅配や旅行手配など順次サービスを拡大している。6月には米IT(情報技術)企業大手グーグル傘下のクラウドサービス会社などと業務提携を結んだ。グーグルの持つクラウド力を背景に、地方でもサービスを展開していく計画だ。

そのロビンフッドが9月に入って新たに結んだ提携先がタイ国営郵便のタイポスト(郵便局)だった。食事の宅配はどうしても昼食時と夕食時に注文が集中する。かと言って、最繁忙時間帯に合わせて多量のドライバーを確保しておくことは非効率だ。そこで、忙しい時間帯を中心にタイポストの配達員がロビンフッドに代わって食事などを客先に届けるというのが提携の基本的な内容だ。

これにより、タイポストの配達員の収入も増える。SNSの普及などからタイでも郵便離れが著しく、昨年のタイポストの収支は16億バーツの最終赤字だった。公的機関の職員が民間宅配の配達員となることに議論もあったが、背に腹は代えられないというのが本音のようだ。

業界関係者によると、タイの食品宅配市場は現在約700億バーツ。コロナ前の18年から10倍近くの伸びだという。だが、これがピークだとするのが業界の大方の見方だ。このため、一部の宅配会社では早くも人員削減に踏み切るところも出ている。その一方で、良質なドライバーの確保も急がれる。そこで宅配各社は、燃料費や通信費の補助、事故に備えた損害保険の加入などといった福利厚生の差でドライバーの囲い込みも進めている。

(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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