迷走続くタイ大麻市場 投資熱は拡大

総合 ニュース 2023.02.22 12540号 06面
喫茶店かと見間違う「大麻ショップ」。駅高架下にオープンした。大麻成分入りの食品などを販売している=23年1月28日、バンコクで小堀晋一写す

喫茶店かと見間違う「大麻ショップ」。駅高架下にオープンした。大麻成分入りの食品などを販売している=23年1月28日、バンコクで小堀晋一写す

食品などへの添加が解禁されたタイの大麻市場が迷走を続けている。昨年の禁止リストからの除外以降、当初予定された医療・美容用など以外の目的外使用が増え、タイ保健省によれば中毒患者が2~4倍にも広がっているというのだ。このため同省は、幻覚成分を多く含む花蕾(大麻草の先端部分)の規制に乗り出し、購入する際は身分証明書の提示を義務付けるなどしたがあまり効果は出ていない。一方、食品メーカーなど産業界は新たな収入源の誕生だとして好意的に受け止めており、人通りのある場所では大麻成分を添加した菓子などを売る「大麻ショップ」のオープンラッシュが続いている。5月にもある総選挙の行方と絡んで、政争の具にもなっている。

タイ政府は昨年6月、使用を禁止する麻薬リストから一定の成分以下の大麻を除外する保健省令を発布。これによってタイの麻薬使用が一気に広がった。伝統的に薬草(ハーブ)の利用が盛んな国。精神を安定させたり、リラックスさせたりする医療・美容向けの利用は古くから行われており、解禁に当たっても反対の声はそれほど大きくならなかった。これまでの一時的な禁止も、国際的な麻薬撲滅運動に呼応したものだった。

ただ、解禁以前から若者を中心に乱用への懸念は指摘されていた。大学教授らの学識経験者は未成年者が多用した場合の健康被害を指摘。解禁直後から、若年者の使用が2倍以上に増えると警告していた。外国人旅行客が開放感から乱用するケースも心配された。日タイ両国の大使館は、日本への持ち込みは処罰の対象になるとして注意を呼び掛けていた。

もちろん、タイ政府も状況を放置することはなかった。大麻成分を含んだ食品や飲料を販売する際には、看板を設置するなど他の商品と区分して陳列するよう指示。学校や寺院、公園などへの持ち込みをしないよう措置を取った。対面販売を原則とし、自動販売機での販売も禁止した。抜き打ちの検査も行っている。

それでも、大麻市場への投資熱は広がる一方だ。食品や化粧品各社は大麻関連ビジネスを次々と立ち上げている。海外の企業と提携して成分抽出を行う会社を設立したり、栽培から抽出・加工・製品開発まで一貫生産を手掛けたりする大企業も現れた。繁華街や駅の高架下など人通りの多い場所には、大麻成分入りの食品や飲料を売る店舗が相次いで開業し、「大麻クリニック」なる医療施設も誕生した。ペット用の大麻成分入り製品も新発売された。

解禁を押し進めたアヌティン副首相兼保健相は、大麻関連市場が向こう5年間で8割増の500億バーツ(約2000億円)規模に拡大していくとの見方を示している。すでに国内における大麻の栽培面積も1200haに広がった。大麻草を栽培するために国に登録した企業や個人は100人・団体を超えている。新たに開発された大麻成分入り食品や飲料も1500品以上に達した。

タイの大麻解禁の話題がこれほどにぎわうのは、5月上旬にも予定されている下院総選挙と密接に関係するからでもある。推進派のアヌティン副首相が党首を務めるタイ名誉党は、選挙での躍進を画策し、あわよくば首相の座をも狙う。一方、共に連立政権を組むタイ最古の政党民主党はジリ貧の党勢を立て直すため、今ごろになって反対を打ち出した。与党第一党の親軍政党国民国家の力党は世論の行方を見極めようと態度を明確にしていない。結果、連立与党内にあっても明確な方向性は打ち出せていない。

政界、財界、中小企業などさまざまな利害関係が交錯しながら投資熱だけは高まりを見せるタイの大麻市場。食品などへの普及が一段と進む中、迷走する状況が続いている。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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