国連WFP 新型コロナウイルス緊急支援応援対談 安藤宏基会長×高野光二郎氏

総合 インタビュー 2020.11.13 12146号 12面
特定NPO法人国連WFP協会・安藤宏基会長

特定NPO法人国連WFP協会・安藤宏基会長

国連WFP国会議員連盟・高野光二郎会長

国連WFP国会議員連盟・高野光二郎会長

写真左から安藤宏基WFP協会会長、今野正義日本食糧新聞社会長CEO、高野光二郎WFP国会議員連盟会長

写真左から安藤宏基WFP協会会長、今野正義日本食糧新聞社会長CEO、高野光二郎WFP国会議員連盟会長

 ◇特定NPO法人国連WFP協会・安藤宏基会長「飢餓人口の減少で世界平和へ」、国連WFP国会議員連盟・高野光二郎会長「拠出金増額に質高い根拠必要」

 年初から拡大し続けるコロナウイルス感染問題は10ヵ月を経過しても衰える気配を見せない。世界全体では感染者4500万人超、死者110万人超(10月末現在)という猛威を振るっている。各国の主要都市では、都市封鎖、夜間営業禁止など、生活に大きな影響が出る措置が続いており、かつて経験したことのない混乱と閉塞感を味わっている。こうした状況下、国連世界食糧計画(国連WFP)にノーベル平和賞授与が決定した。十分に食料を得られない人々が2億7000万人に達すると危惧される中で、これからの支援のあり方、食料安全保障などについて、特定NPO法人国連WFP協会の安藤宏基会長(日清食品ホールディングス社長CEO)、国連WFP国会議員連盟の高野光二郎会長(自由民主党参議院議員)に聞いた。(聞き手=今野正義日本食糧新聞社会長CEO)

 ●危険地域へはWFPだから行ける

 –国連WFPのノーベル平和賞受賞については。

 安藤 今回のノーベル平和賞授与は大変名誉なこと。私たち国連WFP協会は、WFPを支援する民間組織だが職員全員が喜んでいる。

 今、コロナ感染で医療対応も混乱、経済活動は停滞して世界中が危機的状態にある。その一方で飢餓人口も増加しており、富める者と貧しい者を分断する社会が一層進んでいる。

 感染の拡大と長期化で、産業が破壊され新たな失業者が生まれ、飢餓人口が増加することを危惧している。

 平和な社会があるから、飢餓人口を減少できるし、支援を進めることで平和な社会も望めるという流れだが、環境は一段と厳しくなっている。

 今回の受賞が、こうした厳しい状況を考える一つの機会になれば大変うれしい。

 高野 ニュース速報の前に議員連盟の仲間から連絡をいただいた。本当にうれしく現地で頑張っているWFP職員たちの顔が浮かんだ。

 受賞を機に、あらためてWFPの存在意義を知ってもらい、WFP協会とともに活動を盛り上げていきたい。

 ノーベル平和賞の選考委員会は、コロナ感染の拡大で「国際的な連帯と多国間協調の必要性がかつてないほど求められている」とコメントしている。

 感染の問題、経済の問題ともに深刻で、世界の国々は結束して対処していかねばならない。そうした背景も大きな受賞理由になっていると思う。

 –人命と経済活動について、国連の発表ではさらに1億3500万人に対する支援が必要と呼び掛けている。前例のない危機の中、国連WFPの活動はどうなると考えているか。

 安藤 現在、飢餓人口は6億9000万人といわれている。

 昨年、世界で急性食料不足を抱えた人は1億4900万人。WFPは9700万人を支援した。

 しかし、今年の急性食料不足は2億7000万人に達すると予測されている。WFPも過去最大の1億3800万人を支援する予定だ。

 ただ、状況は今後ますます悪化し、失業者や飢餓人口も増加する方向だ。本来であればWFPへの予算を積み増しせねばならないが、今は全体で80.5億ドルくらい。本当は105億ドルの予算で対処していかねばならない。2割程度不足した中で、何とか対応しているのが現状で、5600台のトラック、100機の飛行機、30隻の船を使い、支援物資の物流を実施している。

 食料自体の購入、それを管理・配送する手続きなど、手間と経費がかかる仕事だ。これも、より効率を高める方法を導入する必要があるだろう。

 一般の方々の寄付も重要だが、国からの拠出も一考していただきたい。昨年実績は165億円程度だが、数年前は200億円を拠出していた。

 高野 昨年、日本政府の拠出金は世界10位だが、そのランクは下がり続けている。WFPへの全体額は約97.2億円。当初予算で約5.3億円、補正予算で約92億円と、安定的な支出が見込めず補正予算に依存しているのが現状だ。

 増え続ける飢餓問題に対し、WFPがさらに活躍するには、計画的に事業を遂行できる環境を整えることが重要だ。拠出金も、追加の補正予算ではなく、安定的な当初予算を増やしていきたい。

 現在、内閣は3次補正案の編成方針を示しており、連盟としても予算確保を強く要望していく。

 拠出金を当初予算に計上するには、質の高い根拠理由が必要となる。グローバル経済が進展・拡大し、世界中の国や地域に日本企業が進出する際には、国際貢献の実績が一つのキーワードになる。

 各国との貿易ルール構築、外交・安全保障に資するよう、国連に日本人職員を増やしていく活動も進めていく。

 日本の食品は世界でもトップクラスの品質で栄養価も高い。金銭だけでなく栄養改善や飢餓に対処する技術協力などの知見、サービスも供給できればと思う。

 ●SDGs達成を困難にする難民問題

 –WFP国会議員連盟については。

 高野 複数回、難民キャンプ視察に行ったが、同行者もその劣悪な環境に驚き、食料支援だけで解決する問題ではないと理解した。こうなる原因は、大国同士の思惑、思想・宗教の違いによる衝突、気候変動などさまざまだが、彼らに手を差し伸べなければ状況はますます悪化し、新たな難民の大量発生にもつながる。日本に影響が出ることも想定される。

 問題解決には、各国が「自分たちの問題でもある」という危機感を共有する必要がある。

 私は日本に「自分さえよければ良い」と考える人間はいないと信じている。日本が存在感を示し、各国と協働できる環境を構築しなければならない。議員連盟もそのお役に立ちたいと考えている。

 –緊急支援については。

 安藤 食料は基礎体力を支える根源であり、体力が下がってしまっては病と戦えない。ビーズリー事務局長の発言通り「ワクチンができるまでは、食料こそが最善のワクチン」といえる。

 世界全体のコロナウイルス感染を見ると、日本はまだ軽微な方で、ヨーロッパ、南北アメリカなどは本当にひどい状態だ。今日、世界の国々は多様な関係を持ってつながっている。困っているのは自分たちだけではない。世界にはもっと困っている人たちがいることを気付いてほしい。

 –目標達成まであと10年となったSDGsについては。

 高野 難民の発生増が目標の達成を困難にしている。ミャンマーのロヒンギャ問題にしても解決には、食料支援だけでなく関係各国の政治的な話し合いによる打開が必要だ。

 現地に行かなければ実感できないが、物資の運搬ひとつでもかなり危険がつきまとう。

 実際問題として、当事国との信頼関係や、地域の情報を掌握し、ロジスティクスのエキスパートであるWFPしか入れない国や地域がある。彼らの後にユニセフやFAOが続く形となっている。

 安藤 SDGsには17の目標があるが、食品に関わるものだけを探しても10程度はある。中でも「飢餓と戦う」という目標を食品企業は意識していただきたい。

 また教育も大変重要な課題でWFPも「レッドカップキャンペーン」などを通じて途上国の自立につながる支援を続けている。

 現在、青山の伊藤忠アートスクエアで、当協会の理事でもある本田亮氏のイラスト展を開催している。本田氏の作品を拝見するとコウノトリが赤ちゃんではなく食料を持って届けるイラストがある。WFPの支援力、ロジスティクスを分かりやすく示したものだ。

 SDGsの内容を文章だけで読むと難しく感じてしまうが、こうした形で提示されると大人から子どもまで、その内容をよく理解できると思う。

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