忘れられぬ味(66) 北酒連社長・安田博吉 フランスの田舎料理
フランスの地方の田舎の料理はとにかくうまい。
娘夫婦がパリに住んでいた関係で、ここ数年娘夫婦の案内でフランス各地、特に田舎を旅行する機会に恵まれたが、立ち寄った先々で“これはうまい”と感嘆する料理の数々に出合い、これがフランスの地方旅行の楽しみの一つともなっている。
地中海沿いのスペイン国境に近いポール・ヴァンドルという漁港の海辺のテラスで食べた“イワシのソテーとアンチョビのサラダ”、ポーの近郊でアンリー四世が愛したと言われるワインの産地ジュラソンのひなびたレストランで味わった“きのこ料理〈セップをみじん切りにしていためたもの〉”、ボルドーの近くのアカショの海浜のカフェでの“カキ料理”等々の美味しさは、今思い出してもよだれが出てくる。
また、これらのレストランは観光客だけでなく、地元の人も多く、大変賑わっていたのが印象に残っている。恐らく、自分たちの美味しい料理を求める住民、さらに食いしん坊とも言うべき美食家がたくさんいるということではなかろうか。
さらに、旅の途中、街の広場で開かれているマルシェをしばしば見物したが、農家の人々が持ち寄った新鮮な野菜や果物、手塩にかけて作ったチーズ、鴨肉の数々など食材の豊富さにも感心させられた。そこで買い求めた少し酸味のある新鮮でサッパリした山羊のチーズの風味は新発見であった。フランスの地方料理を生み出した背景には、これらの食材の発掘や開発、料理人や料理技術の進歩がしっかり裏打ちしているに違いない。
そういうことでわが家のフランス旅行のモットーは、美味しい酒、美味しい料理、心に残る風景を求めて、しかも安上がりの小旅行ということにしている。
料理と観光の関係は深い。われわれの北海道でも最近観光の重要性が一段と叫ばれている。観光資源にも恵まれているし、食材も豊富である。さらに料理に磨きをかけて、美味しい料理を食べに北海道に行こうという人がどしどし増えることを心から期待したい。
((株)北酒連社長)
日本食糧新聞の第8402号(1998年7月29日付)の紙面
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