複数税率・コンビニ改革…食品業界2019年重大ニュース

10月の増税を機に大手スーパーはポイント還元だけでなく値下げも強化

10月の増税を機に大手スーパーはポイント還元だけでなく値下げも強化

平成の三十余年が幕を閉じ、新たに令和の時代を迎えた2019年は、食品業界にとっても未曽有の変化の年となった。食品スーパーの元日営業の縮小やコンビニエンスストアの時短営業の導入、メーカーの納品リードタイム延長など従来の商慣習を見直す動きが相次ぎ、働き方改革や食品ロス削減へ関連法案が施行。10月にはわが国初の消費税軽減税率制度がスタートし、それに伴うキャッシュレス・ポイント還元事業が物議を醸した。これら一連の動きは従来のビジネスモデルに大きな転換を突き付け、企業は新時代に対応した成長戦略の確立が最重要課題となっている。日本食糧新聞ではこの1年を振り返り、重大ニュースを選定した。

わが国初、複数税率を導入

10月に消費税率が10%に引き上げられ、食品は外食や酒類などの一部を除き軽減税率が適用された。同時に中小企業を対象にしたキャッシュレス・ポイント還元事業がスタートして、スーパーでは対象外の大手も対抗策を打ち出したことから10月はポイント合戦の様相となった。

10月の増税を機に大手スーパーはポイント還元だけでなく値下げも強化

中小スーパーは登録認可が一律に下りなかったこともあり、5%還元の効果に差も見られた。加盟店の多くが2%還元の対象となったコンビニは、10月以降の既存店がプラス基調に転じている。

12月末時点でキャッシュレス還元事業への登録店数は94万店となっている。90%が5%対象の中小企業、10%がフランチャイズ(FC)加盟店で、FC店の半数がコンビニだ。スタートから約2ヵ月間(11月25日まで)の対象決済額は1兆9000億円、還元額は780億円となっている。このうちコンビニへの還元額は約100億円で15%を占めている。

11月以降、大手チェーンのポイント販促はトーンダウンした。ただ、キャッシュレス還元は月を追って浸透するはずで、ポイント還元・値下げ競争の再燃も懸念される。

コンビニの事業・組織構造を転換

コンビニはビジネスモデルをいかに再構築するかが問われた。大量出店と標準化された店舗運営で成長してきたが、加盟店の人手不足の深刻化、地域や社会環境の変化で従来のモデルでは成長が難しくなり、各チェーンとも地域や個店に応じた店づくりを模索する動きが活発化した。

加盟店への経営指導のあり方、社内外との意思疎通、本部の組織体制や企業統治も問われた。コンビニにとっては事業や組織構造を転換する節目の一年になった。

ローソンは人手不足に対応して深夜無人営業店の実験にも着手

2月に東大阪市のセブンイレブンのオーナーが始めた時短営業が発端となり、24時間営業が社会問題として報じられた。国も対策に乗り出し、経済産業省は各チェーンに行動計画を要請し、「新たなコンビニのあり方検討会」も開かれた。各チェーン本部は時短営業店の実験に着手し、チャージの減額や加盟店支援策の追加、省人化の投資など対策を打ち出した。

セブンイレブンで相次いで不祥事が起きた1年でもあった。スマートフォンアプリ決済「セブンペイ」の不正利用問題、本部社員によるオーナーへの無断発注、代行する加盟店従業員への残業代支払い不足が発覚し、最大手だけにメディアの批判も集中した。

食品ロス削減を推進 SDGsの挑戦意欲高まる

2019年10月1日に「食品ロスの削減の推進に関する法律」(食品ロス削減推進法)が施行した。本来食べられるのに捨てられてしまう食品ロスを減らすために、国民各層がそれぞれの立場で主体的に取り組み、社会全体として対応していくというものだ。農林水産省が2019年4月に公表した2016年度の食品ロスは推計年間643万トン、前年度から3万トンの削減にとどまっている。

イオンは世界の大手小売企業などが参画する食品ロス削減構想を国内の食品メーカーなど取引先21社と取り組み、2030年までに主要サプライヤーの食品廃棄物半減を目指す

全体の55%を占める事業系が前年から5万トン減少したものの、45%を占める家庭系は逆に2万トン増加した。それだけに、必要量に応じた食品の販売・購入、販売・購入をした食品を無駄にしないための取組みなど消費者と事業者との連携協力による食品ロス削減を同法の下、推進する意義は大きい。

2015年9月25日の国連総会が採択した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が示すSDGs(持続可能な開発目標)は「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の1人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」を掲げ、企業活動に対しては創造性とイノベーションの発揮を求めた。

食品メーカーは賞味期限の年月表示への変更や賞味期間の延長、小売各社は商慣習3分の1ルールの2分の1ルールへの緩和、催事商品の予約販売への切り替え、小売を起点とした取引先サプライチェーン全体での取組みなどで食品ロス削減を進める。

食品界では、社会課題を自らの経営課題と位置付けSDGsへの挑戦意欲を示す機運が高まっている。

各地で大雨水害が多発

大雨による水害が各地で発生、食のサプライチェーンに広範な影響を及ぼした。9月の台風15号は千葉県で大規模な停電につながった。10月の台風19号は東日本の広いエリアで河川氾濫を引き起こした。

大型台風の接近に合わせ、チェーンストアでは店舗の営業を休止するケースが一般化した。台風接近への対応は計画通りに進められたものの、その後の停電や水害に伴うインフラの寸断に対しては課題も残った。台風19号による被害が大きかった地域のうち、ヨークベニマルでは東日本大震災を機に構築した災害対策が機能した。

カスミは9月に10店規模の停電、10月には複数店舗が水没被害を受けた。11月以降の新店で水や非常用になる食品の店頭在庫を3倍以上に積み増す対応を開始。店舗運営のためのインフラ対策を進めると同時に、消費者への店舗機能としても災害対応を強化する。
毎年繰り返される大規模災害への対策は、企業にとって常時の課題になりつつある。

ゲノム編集食品が登場

超多収イネ、甘くて長持ちするトマト、新芽に天然毒素を含まないジャガイモ、肉厚のマダイ、白いままのマッシュルーム–。これらは現在開発中のゲノム編集食品の一例だ。10月から、厚生労働省はゲノム編集技術によって作られた食品の届け出制度をスタートさせた。

遅かれ早かれ、消費者や生産者になんらかのメリットのある食品が出回ることが予想される。ただ届け出制度は義務化ではなく任意とされたため、安全性や透明性の観点から疑問視する声もある。

遺伝子組み換え技術と異なるゲノム編集の大きな特徴は、その痕跡を残さないことだ。そのため虚偽や無届けでの市場投入や、海外からの意図しない流入の可能性もある。動植物の場合、生態系に与える影響も懸念される。

今後もゲノム編集は技術革新が進むと見られており、その健全な活用のためには厳正なルール化も必要となろう。

ベジミートなど代替食が浮上

持続可能な社会の実現や健康志向などのニーズに支えられ、ベジミートなどの代替食が急浮上してきた。国連で採択されたSDGsの広がりを受け、飢餓の撲滅や海洋・陸上資源保全といった17項目の目標に取り組む機運が世界的に高まり、代替肉の開発や需要拡大の追い風となっている。

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日本の企業も来年の東京2020大会の開催へ向け、かねて一部の食品メーカーがインバウンド需要対応などで代替肉の商品化に着手。代替肉だけでなく、糖質制限やタンパク質強化などを目的に開発された代替食の需要も広がりをみせる。

価値観の変化や長期的な健康志向も背景に、代替食は国内で今後どのような市場が形成されていくのか。関連企業の取組みに注目が集まる局面だ。

タピオカが大ブーム

2019年はタピオカが空前の大ブームを巻き起こした。ユーキャン「新語・流行語大賞」やぐるなび総研「今年の一皿」にノミネートし、「タピる」「タピ活」などの造語もできた。SNSで情報が拡散され、特に若年層からの支持を集めた。

ブームの主役は「タピオカミルクティー」。特に台湾発祥のゴンチャは17の国と地域に約1100店舗を構え、日本でも50店舗以上を展開している。繁華街には次々と専門店がオープンし、大手カフェチェーンや飲食店での取り扱いが相次いだ。

女性を中心に若い世代で人気が爆発した

店の選択肢が増えたことで個性化も進んだ。多様なドリンクとの組み合わせや甘さの調整、トッピングなどで自分好みにカスタマイズできる自由度の高さもブームを後押しした。

人手不足で構造変化進む

今年も労働力不足に伴うコストの上昇に歯止めがかからず、特に物流関連費用の高騰に企業は収益悪化を強いられている。今春はメーカーが物流費高騰を主因に4年ぶりの値上げを実施したほか、納品リードタイム延長への動きが急速に拡大。大手卸の今第2四半期業績は販管費の増大で減益を強いられた企業が目立つなど、厳しいコスト環境が続く。

そうした中で、今年は国土交通省などが深刻化するドライバー不足の改善に向け「ホワイト物流推進運動」を立ち上げ、食品業界でも有力各社が参画。日本加工食品卸協会が業界標準のトラック予約システム「N-Torus」の本格普及に着手したほか、直近でもメーカー同士が物流合理化へ協業を図る動きも相次ぎ表面化している。

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