5Gで産業構造が変化 未来型スマート農業も実現へ

無人農機(写真提供:農業・食品産業技術総合研究機構)

無人農機(写真提供:農業・食品産業技術総合研究機構)

あらゆるモノがインターネットにつながるIoT(モノのインターネット)の進展に伴い、その基盤となる通信ネットワークの重要性が増している。より高度でスピーディーな情報処理が求められる中、次世代のネットワークとして注目されているのが「5G」、すなわち第5世代移動通信システムだ。農林水産業や食品加工業はもちろん、行政、交通、防犯、街づくり、観光などあらゆる産業で利活用が進むIoT時代の新基盤を紹介する。

キーワードは「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」

移動通信システムはほぼ10年おきに進化してきた。1980年代の携帯電話が第1世代、パケット通信に対応した1990年代のデジタル方式が第2世代、2000年代の世界共通のデジタル方式が第3世代と呼ばれている。2010年ごろからLTE、LTE-Advancedの第4世代となり、2020年からは第5世代、いわゆる「5G」が登場する。

5Gの大きな特徴は三つある。一つ目は「超高速」で、現在の移動通信システムよりも100倍速いブロードバンドサービスが提供できる。2時間の映画なら3秒でダウンロード可能なスピード感だ。

二つ目は「超低遅延」。利用者が遅延(タイムラグ)を感じることなくリアルタイムで遠隔地のロボットなどを操作・制御できるようになる。三つ目は「多数同時接続」。パソコンやスマートフォンをはじめ、身の回りのあらゆる機器がネットに同時に接続できるようになる。

総務省では2019年4月に5社4グループの携帯電話事業者に5G用電波の割り当てを行った。今春から商用サービスがスタートする見込みで、これにより産業構造も大きく変わることが予想される。

先端技術の活用で省力・効率化

5Gによりロボットや人工知能(AI)、情報通信技術(ICT)などの先端技術を活用すれば、水田作や畑作、露地野菜・花き、施設園芸、果樹・茶、畜産などの分野で省力・効率化が可能になる。天候や作物の生育状態、市場環境などすべての情報を統合管理することで、収量調整や出荷管理も容易になる。ドローンや無人農機を制御した人力に依存しないスマート農業も実現しそうだ。

スマート農業の実現に向けた実証実験も進んでいる。北海道のとかち村上牧場は高精細(4K)カメラを牛舎内に設置し、牛の耳標(家畜識別用の耳に付ける標識)から牛舎内の牛の位置と個体を識別して搾乳作業を効率化。エサの減りや牛の体調を自動認識し、事務所でモニター管理する。

無人農機(写真提供:農業・食品産業技術総合研究機構)

福島県の榮川酒造では、酒造りの各工程にドローンやRFIDタグ(電子タグ)などのIoTソリューションを導入してその有効性を検証した。

食品分野以外でも社会的インパクトは大きい。例えば交通・物流分野では、高速移動中の大容量通信が可能になる。完全自動運転が実現し、交通事故の低減が期待される。街中の交通情報が共有されれば渋滞も解消される。インフラ管理や行政サービス、防犯、教育などへの利活用で、スマートシティー化・スマートライフ化も加速する。

建築・土木分野では建機の自動化で施工の精度や安全性が向上する。センシング技術で橋梁などの予防保全も強化できる。医療分野では遠隔地からの診察や手術が可能になる。電子決済が普及することでショッピングのキャッシュレスやカードレス化がより一層加速する。

家庭内でも世界中のサービスがリアルタイムで受けられるようになる。冷蔵庫の中身からレシピを自動で判断し、足りない食材を自動で購入できるような時代もすぐそこに迫っている。

「ローカル5G」で地域課題解決

通信事業者以外のさまざまな主体(地域の企業や自治体など)が、自ら5Gシステムを構築する「ローカル5G」の整備も進んでいる。地域の企業や自治体などさまざまな主体が自らの建物や敷地内でスポット的に構築できる5Gシステムで、Wi-Fiなどと比べて無線局免許に基づく安定的な利用が可能だ。

携帯事業者の5Gサービスと異なり、地域や産業の個別のニーズに応じて柔軟にシステムを構築できるほか、通信事業者ではカバーしづらい地域で独自に基地局を設けられるメリットがある。また、他の場所の通信障害や災害の影響も受けにくく、電波が混み合ってつながりにくくなることもほとんどない点が特徴だ。

ローカル5Gは昨年12月に申請受け付けを開始。今春からはパブリックコメントなどで広く意見を求め、2020年内に制度化される見通しだ。

※日本食糧新聞の2020年1月1日号の「新春特集」から一部抜粋しました。

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