家庭用スパイスが10年連続成長 練りスパイスが市場をけん引
スパイス市場は家庭用が10年連続して成長を続けている。業務・加工用はコショウなど主要スパイスが安定した価格を形成していることで市場は安定している。これまで家庭用はメニュー用シーズニングスパイスが発売以降、市場の拡大をけん引してきた。 現在は伸びは鈍化しているものの、練りスパイスが最近の市場をけん引している。
簡便な調理を求める消費者のニーズをつかむ
生鮮代替需要を捉えた「ショウガ」や「ニンニク」などの大容量タイプに加え、青ジソやネギ塩などのバラエティー化も市場拡大に貢献、今後もスパイス市場は拡大が見込まれる。中国産のガーリックや唐辛子、ショウガなどの高騰気配が伝えられるがスパイス業界は全体として今後も成長が見込まれる。
家庭用スパイス(洋風、練り、液体、粉体のトータル)は好調な推移を続け、11月の直近1年間で前年比2.3%増と拡大傾向が続いている。過去10年間を振り返ってみると、2008年以降の市場は毎年拡大を続けている。
直近1年間では590億円規模と2008年比で約87億円増と17.4%ほど市場は成長している。要因としては、生鮮代替需要を中心とした練りタイプの大幅増と洋風スパイスの拡大が大きい。これに加えて、近年は「具入りラー油」などが再び伸び始めていることで市場は活況を呈している。テーブルコショウや七味唐辛子などは若干市場規模を縮小しているが、これ以外の分野が成長をけん引している。
11月までの直近1年間を見ると、シーズニングスパイスを含めた洋風スパイスが前年比2.3%増、テーブルコショウや七味唐辛子などの粉体スパイスが同0.3%減、練りスパイスが同3.7%増、液体スパイスが同3.4%増となっている。
これまで大きな伸びを示してきたメニュー系のシーズニングスパイスは同1.1%増とその伸びがやや鈍化している。この理由としては、メニュー系シーズニングスパイスが発売以降、数多くのメニューが投入されバラエティーが一巡したことと、生鮮売場などでの売場の拡大が一通り行きわたったことが挙げられる。
しかし、メニュー系シーズニングスパイスのトライアル率はまだ2割ほどとのデータもあるため、今後はよりトライアル層をいかに取り込むかが各メーカーの課題となる。
一方で「マジックソルト」や「香りソルト」「クレイジーソルト」などの汎用(はんよう)シーズニングは前年比10.4%増と成長が続く。一振りでメニューに与える新規性や、塩分を比較的抑えることができることなどから、この分野は今後も拡大が見込まれる。
練りスパイスは大容量タイプの好調で前年比4%増と成長が続く。「本生」や「特選」などの主力品が同3%減、廉価品が同2%増、高級タイプがほぼ前年並み、大容量タイプが同22%増となり大容量が市場をけん引しているといえる。
これまで練りスパイスはその利便性と保存の良さからわさびやからしが市場をけん引してきた。しかし現在ではショウガやニンニクが大きく成長している。これは生鮮からの代替需要が進んだことによる。
食シーンの変化により、現在の消費者はより簡便な調理を求める。練りスパイスのショウガやニンニクは、まさにこの新たな消費者層をつかんだ商品群といえる。加えて、エスビー食品が通常品の約4本分となる大容量タイプを発売したことで練りスパイスのショウガとニンニクは急成長を続けている。
この分野ではハウス食品も昨年2月から新製品を投入し、さらなる成長が見込まれる。またエスビー食品は練りスパイスのバラエティー化を進めており、「きざみ」シリーズを展開。特に「きざみ青じそ」や「きざみねぎ塩」は練りスパイス単品では異例ともいえる実績を積み上げている。
具入りラー油などの液体スパイスも市場は拡大している。この分野では具入りラー油が過去に市場を席巻したが、その後しばらく以上は低迷した。しかし現在ではリーディングメーカーの桃屋、エスビー食品ともに売上げを伸ばしている。
粉体スパイスではカレー粉がハウス食品の「味付カレーパウダー バーモントカレー味」投入以降、市場が拡大している。9月から11月までの3ヵ月で市場を見ると、この市場は前年比4.6%増と拡大している。
この分野ではエスビー食品が今春に「まろやかカレー甘口」を投入する。さらに今年はエスビー食品の「赤缶」が発売70周年を迎えた。同社は今後、「赤缶」でさまざまな販促を予定している。これらの状況からカレー粉市場は今年度従来にない伸びを見せることとなりそうだ。
エスビー食品は今春から発売する新商品でメニュー用シーズニングスパイスに「スモークビーフ」や「マスタードチキン」をラインアップした「BBQ」シリーズを新たにシリーズ化した。
市場の伸びに鈍化が見られるメニュー用シーズニング市場で新たな食シーンを提案することでさらなる市場の拡大を狙う。また練りスパイスには「粗切りトウガラシ」を投入する。練りスパイスの裾野をさらに広げる新商品だ
ハウス食品は昨年2月に「味付カレーパウダー バーモントカレー味」を発売。当初目標の2倍で推移し、カレー粉市場の伸長に大きく貢献している。また練りスパイスの大容量タイプは着実に市場に浸透し、今後大きく売上げを伸ばすことが見込まれる。大容量タイプでは「ねり梅」を新たに投入予定だ。
シーズニングスパイスでは「にんにく族」に「ガーリックバターハンバーグの素」を投入する。さらに「GABANシーズニング」に「タッカルビ」を、「スパイスクッキング」に「大根の中華風サラダ」など新製品4品、リニューアル1品を発売する。
家庭用スパイス市場は全体として好調な推移が続いている。日本国内は人口減少による消費量の低下や世帯構造の変化などによる食シーンの変化により、全体として加工食品市場は伸び悩む傾向にある。
しかし、スパイス関連はさまざまな環境変化に適合した商品を投入していることで、市場は拡大傾向が続いている。今後についても、スパイスは漢方薬に用いられるなど健康に寄与する側面が高いことから、長期的な伸びが期待できる。
「しび辛」ブームが安定へ
業務・加工用の分野では主力となるコショウなどのスパイス原料が安定した価格を形成していることに加え、「しび辛」ブームで花椒やサンショウの需要が高まったことが加わり全体として堅調な推移が続いている。
しかし2019年は中国産ガーリックの価格上昇に加え、中国産唐辛子の高騰、さらには昨年後半から中国産ショウガの高騰気配が伝えられている。これらのガーリック、唐辛子、ショウガは日本国内での消費量が大きいスパイスであるため、これら中国産スパイスの価格動向が懸念されるところだ。
一方でコショウをはじめ洋風スパイスは、カルダモンなど一部スパイスで高騰しているものの全体としては安定した価格を形成している。コショウは世界的な供給量がその需要を上回る状況が続き、原料価格は軟化傾向となっている。
現在の相場状況により、各スパイスメーカーは昨年以降、値下げを受け入れざるを得ない状況となっている。しかし、価格の軟化が始まって以降2020年で4年目となることから今後は相場の反転が予想される。
業務用では花椒やサンショウを使用した「しび辛」ブームが市場の拡大に大きく貢献してきた。現状はこれまでの勢いはなくなりつつあるものの、安定した供給は続き長期的に「しび辛」が新たな味覚として市場に定着することが期待される。
家庭用と同様に業務用の市場でもシーズニングスパイスは新たな領域の商材として市場に定着しつつある。外食産業や中食産業における人手不足は近年、深刻さを増している。このため、ワンオペレーションで味が決まるメニュー調味料はその存在価値を高めている。
シーズニングスパイスもメニュー調味料と同様な商品として市場は拡大傾向にある。現在は業務用でのシーズニングスパイスは容量の比較的多い商品が多いが、今後は業務用でもより少人数に対応した商品設計が求められることとなる。
エスビー食品は家庭用のメニュー系シーズニングスパイスの販売を業務用でも開始し、徐々にその数字を伸ばしている。業務用スパイス市場でも、少量多品種化は進んでいるが長期的には一層の少量化が求められることとなるだろう。
※日本食糧新聞の2020年1月22日号の「スパイス特集」から一部抜粋しました。