総額表示義務復活 当面は様子見の姿勢 食品流通、大半が本体価格併記へ

総合 ニュース 2021.04.02 12209号 01面
税込み価格が明瞭に表記されれば、本体価格との併記も容認された

税込み価格が明瞭に表記されれば、本体価格との併記も容認された

 4月1日から消費税総額表示が再び義務付けられた。商品の値札などに税込み価格を明瞭に表記すれば本体価格との併記も認められるため、小売業界では大半の企業がこの方式へ足並みを揃えたとみられる。食品流通にとって「店頭で値頃感が消失する事態は回避できた」(業界筋)格好だが、コロナ禍で生活防衛意識が強まる中、消費や市場競争へ総額表示の影響がどう出てくるか。当面は様子見の姿勢が続きそうだ。(篠田博一)

 食品業界は消費税総額表示で長期に及ぶデフレを強いられたトラウマがある。前回義務化された04年は小売店頭での値頃感の消失が消費者の購買意欲を著しく削ぎ、同年のスーパー売上高は4.5%減(日本チェーンストア協会統計)、会員調査企業の6割が前年割れになるなど、大幅に落ち込んだ。

 以降、激しい値下げ競争と増税分を売価へ転嫁できない状況が続き、その負担がメーカー・卸へ飛び火するなど業界が極度に疲弊。13年10月の「消費税転嫁対策特別措置法(特措法)」で総額表示義務が緩和され、税抜き本体価格の表示が認められるようになるまで、食品業界は売価上昇の機会を得られなかった。

 ただし、特措法は今年3月までの時限立法のため、18年10月には食品含む消費財の製配販27団体が政府に総額表示義務の廃止を要望。19年10月の消費増税・軽減税率導入を経て、昨年8月には外食も合流した28団体が本体価格表示の恒久化を要望していた。

 特措法の失効を受け、4月から復活した総額表示義務では「298円(税込み321円)」といった本体価格と税込み価格の併記も認められることから、割高感のみが前面に出る価格表示は避けられた格好だ。業界関係者によると、これまでも小売業の約6割は本体・税込み価格の併記を採用していたとされ、基本的に負担の少ない形で総額表示へ移行できたとみられる。

 問題は表示変更に伴い、店頭で一部混乱も予想されることだ。もともと税抜き・税込み併記していた地域スーパーは1日、来店客に「税込み表示だけの値札に変わっていない」と早速指摘を受け、法律にのっとり併記している旨を説明したという。

 また従来は税別表示(「298円+税」など)をしていた小売業にとっては、併記といえども売価が上がったような見え方となり、コロナ禍で低迷する個人消費へ下げ圧力が強まる懸念もある。

 今回、アパレルや携帯電話などの他業界では本体価格を実質値下げして、キリのよい税込み価格に合わせる動きも見られた。現状では食品流通に同様の動きは見られないが、競争激化に伴う値下げ圧力で仕入先が疲弊した2000年代の再現とならないよう、行政はしっかり目を光らせる必要がある。

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