外食の潮流を読む(83)働きたいと思える環境を整えて、持続可能な活動を行う飲食企業

2022.05.02 519号 10面

 「日本一おいしいミートソース」という“商品”がある。これは「TOSCANA」というカジュアルレストランが、自他ともに“日本一おいしい”と認める自店の「スパゲティミートソース」を店内外でこのようにブランディングしているもの。店内での外販、EC、そしてコンビニをはじめとした小売業と販売チャネルを拡大。店舗の外では「TOSCANA 濃厚ミートソース」という商品名で流通している。これらを展開するのはイタリアンイノベーションクッチーナ(本社/東京都新宿区、取締役社長/青木秀一)である。

 同社では2014年12月に「東京MEAT酒場」という居酒屋を東京・浅草橋にオープン。“ハイボール&もつ煮”が定番の“おじさん系”である。カジュアルイタリアンの会社がこのような店を営業する理由について、同社会長の四家公明氏はこう語っていた。

 「イタリア料理店はオープンしても店の中をうかがい知ることは難しく、立ち上がりに時間がかかる。しかし“おじさん系”は外観からしてどのような店なのか想像がつくので立ち上がりが早い」。

 同社では21年5月にプロパーの青木秀一氏が取締役社長に就任した。青木氏は01年に当時2店舗の同社に入社。将来、飲食店で独立することを目標としていてたちまち頭角を現していく。独立起業を決意したタイミングで代表の四家氏から「一緒に面白いことをやろう」と言われて経営陣に就き、さまざまな分野の改革を推進してきた。

 青木氏は「東京MEAT酒場」のリブランディングの必要性を感じていた。その理由は2点。

 まず、クオリティーの視点から「食材が高騰していくことから、客単価2800円のレベルでは食材や調味料にこだわることができない。この点には妥協しない」。次に、労働環境の視点から「当社の従業員が若くなる傾向にあって、異動があると『あの店に行きたくない』という声があった。従業員が働きたいと思わないとお客さまに伝わらない」。

 そこで、女性客、お一人さま、ノンアルコールの人も入りやすいファサードにして、店内は居心地のいい空間にした。客単価は3800円となった。ちなみに22年3月末現在、カジュアルイタリアンは11店舗、イタリアン食堂は5店舗となっている。

 さらにクラフトシードルの醸造に着手。毎月3t出ている長野の規格外のリンゴを使用して、同社オリジナルのシードルを造るというプロジェクトで、同社従業員が製造にかかわった。このシードルは同社全店で販売したが(3月上旬で完売)、製造に関わった全員がお客にそのストーリーを説明することができた。

 このように同社では自店のアピールと経営の安定に余念がなく、従業員本位で事業を推進してきた。特にシードル醸造の顛末(てんまつ)は社会課題の解決である。このような飲食業は持続可能な経営の感覚を身に付けているといえるだろう。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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