トップインタビュー 宅配ずし「味よし」チェーン代表・大西勇氏
――宅配ずし店のFC化に乗り出して三年、またたく間に八〇店舗に達しました。以前はテークアウトずし店を自営していたと聞きます。転換のきっかけは何だったのですか。
大西 あるテークアウトずしチェーンに属し量販店の一角で店売りをやっていたのですが、五、六年前、当時台頭してきたロボットずし(包装ずし)のあおりを受け売上げが低迷し、その打開策として宅配に乗り出したわけです。
宅配ニーズの強まりは店売り時代から常々感じていました。休日や記念日、節目の日には決まって刺身皿や飯台(桶)を持参する来店客が多く、安価なテークアウトずしでも出前さながらに盛り付けると非常に喜ばれる。「高級ずしには手が届かない。けれども本物志向のすしを食べたい」。そんなけなげな気持ちが器を持参する姿から伝わって来るわけですよ。手軽に頼める出前ずしの必要性をしみじみと感じましたね。
ならば、その気持ちに応えようと、すしの宅配専門店を保土ヶ谷(神奈川県)にオープンしたのです。当初は手書きのメニューチラシを毎朝4時からポスティング。宅配ピザや居酒屋の写真入りメニューを参考にしながらチラシの改良を重ね独学でノウハウを固めてきました。見よう見まねで一から始めたから大変でしたよ。
軌道に乗り始めた三年前、宅配ずし店を開業したいという知人がいてノウハウを教えたところ、すぐさま五店舗を開業、大繁盛の知らせを聞きまして、ならば宅配ずしを自らの手で拡げてみようと。それで二年前からFC化に乗り出したわけです。
回転ずし、包装ずし、大型店の勢力が強まっている最近のすし業界。テークアウトずしの存在感は色あせる一方です。宅配という業態特化はテークアウトずしの再生を図るうえで、最良の方法といえるでしょう。
もとより、すしの需要は家庭内に偏りつつあります。統計上、すし店の店舗数は減少していますが需要は増える一方。それだけ家庭内ニーズが強まっているといえましょう。
――収益性はいかがですか。
大西 店舗開業に関わる初期投資は物件取得費を含め一二〇〇~一五〇〇万円。月商は店舗規模によりますが六〇〇~一二〇〇万円。オーナー利益は二〇~二五%です。減価償却は早い店で半年くらいです。
FCを始めて嬉しいのは、われわれの経営姿勢、実績を間近で見てきたサプライヤーの皆様方からの加盟希望が多いことです。それらの信頼はチェーン展開の大きな自信につながっています。
――抜群の収益性と信頼度です。宅配ずしは、ピザや弁当などの他の宅配に比べて、どのようなメリットがあるのですか。
大西 すしは老若男女を問わず人気が高いことです。嗜好が偏るピザなどに比べると顧客層の絶対数がはるかに上。だから店舗オペレーションの効率も勝るわけです。
ポスティングに相当する売上げ(ポスティング・イコール・売上げ)を容易に想定できる。家族皆で食べるから客単価も高い。オーダーの集中する時期、日にちが前もって分かる。いずれの効率性も幅広い支持層があってこそ。需要ベースがしっかりしているから流行に左右されず確実な反響を見込めるのです。
パーティーメニューの嗜好をアンケートしたところ、すし、ケーキ、フライドチキンの三点セットで十分、という面白い結果もでています。すし人気は不動といえるでしょう。
――宅配ずしは反響がありすぎて過剰オーダーを招きやすいと聞きますが。
大西 それはあります。だから売れる日、時間帯の人員配置が重要なポイントになりますね。土・日だけで一〇〇万円以上、売上げの八割を稼ぐわけですから、当然それを想定した仕込みがチェーンのノウハウとなります。
――数ある宅配ずしのなかでも「味よし」の品質、システムが抜群に優れている、と聞きます。ポイントは何ですか。
大西 多店舗化にともなうスケールメリットに依存するところが大きいのですが、ほかに、わがチェーンの上層部が皆、現場上がりの商売人であることも大きな要素として挙げられますね。
理屈先行でなく体で覚えた経験、テークアウト時代に現場で培った実績をいまに反映させているのです。マグロを切ったり、エビの殻を剥きながら、どうしたらもっと早くさばけるか、どうすれば鮮度を保てるか、四六時中、皆で考えてきたわけですよ。
例えばマグロが一〇㎏あったとします。そのまま切り使いするのではなく、一㎏ずつ切り分けて、必要に応じてストッカーから出して使う。これだけでも鮮度がまったく違ってくる。聞けば当たり前のことですが、実践しているところは少ない。
われわれはこうした細かなノウハウをテークアウトすし店時代の現場で無数に得てきました。それを分かりやすくマニュアル化したものが「味よし」のノウハウ、いわば要であるわけです。
――今後の展開を聞かせて下さい。
大西 今年中に一五〇店舗、来年中には三〇〇店の大台に乗せたいと考えています。三〇〇店舗体制を視野に入れ、現在、衛生研究所を含む本社施設を港北ニュータウンに建設中、物流センターの建設にも着手しています。今後は地方へも積極的に進出、やるからには宅配のトップ企業を目指します。
――今後を期待します。ありがとうございました。
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昭和27年静岡県生まれ、四五歳。テークアウトずしチェーン「なにわっこ本舗」のフランチャイジーとして店売りの現場を長期にわたり経験。平成4年、㈱味よしを設立、宅配ずし「味よし」のチェーン展開に乗り出す。平成7年、業務拡大にともない㈱味よし商事設立。
㈱味よし/所在地=神奈川県横浜市港北区高田町一二三六、電話045・544・9046/設立=平成4年/資本金=一〇〇〇万円/従業員=二〇〇人/ストアブランド=「味よし」/店舗数=八〇店舗(直営一・FC七九)・FCは直営店を分社化、のれんわけの形で元従業員が展開するFCと、一般加盟のFCがある。
(文責・岡安)