低価格時代の飲食・外食店 イタリア料理「カプリチョーザ」
イタリア料理のピザ・パスタは、若い女性を中心に根強い人気がある。この人気の秘密は、シンプルでありながらメニューの広がりがあり、食べやすさ(食感)、気取りのないフランクな料理形態ということにあるようだ。
フランス料理は常に改まった気分を強いられるが、イタリア料理はファッショナブルな雰囲気がありながら、ざっくばらんで陽気な気分が味わえる。
“イタメシ”と称されて広く親しまれているゆえんだが、レストランビジネスにおいて、チェーン展開を進め、成功を収めている企業は少ない。
WDIグループ(本社=東京)が展開している「カプリチョーザ」は、この代表的なチェーンで、現在全国の主要都市に一〇〇店舗を出店、業界トップを走る成長企業だ。
WDI(World Development Institue)グループは、七〇年代、東京、大阪に日本初の大人の社交場(会員制)「プレイボーイクラブ」を展開したことで知られる“国際派”のレストラン企業だ。
九〇年に入ってプレイボーイクラブは、本家アメリカ・シカゴのヘッドクオーターが倒産したことで、今は存在しないが、WDIは“アメリカンホスピタリティ”をスローガンに、アメリカ最新のレストランビジネスを導入してきている。
全米リブコンテストナンバーワンのバーベキューリブレストラン「トニーローマ」、ロックンロールの殿堂アメリカンレストラン「ハードロックカフェ」、五〇年代、六〇年代の古きアメリカを再現したアメリカンテーストの「ロックンロールダイナー」、ローストチキンレストラン「ケニー・ロジャーズ」、LAビバリーヒルズで人気の創作カリフォルニア料理「スパゴ」など。
すべて日本で初めて展開しているレストランビジネスだ。カプリチョーザは日本生まれのイタリアレストランだが、しかし、本場南イタリアのトラットリアレストラン(大衆食堂的レストラン)を再現、イタリア直輸入のトマトソースを使った料理が集客パワーの秘密となっている。
特に、ピザ(直径三〇㎝)、パスタ(一皿三〇〇g)はおいしさに加え、パーティーサイズのボリュームがあり、若い女性客(七、八割)の人気を集めている理由だ。
メニューは、アンティパスタ、ピザ、パスタ、一品料理など約四〇品目(一〇〇~二七〇〇円前後)をラインアップ。
メニューは専門店として“売れ筋商品”で絞り込む形になっているが、パスタ五割、ピザ一割の売上げ貢献度で、この二品目の人気は根強い。
メニューはボリュームがあるので、一人、二人では食べきれない。このためカプリチョーザの客層は、若い女性客ということに加えて、グループ利用が大半を占める。
味、価格、ボリュームの三要素がグループ利用の来店動機を喚起する。これは生産性を高めることに加え、店に活気をもたらし、賑やかさをアピールする。多人数でガヤガヤと食をエンジョイすることは楽しい(客単価一五〇〇円=料理はシェアしながら多くのメニューが楽しめる)。
カプリチョーザの連日の行列、満席状態は、このことがベースとなっているのだ。まさしく本場イタリアの大衆レストランの再現であるのだ。
「店の運営は“友達みんなで楽しく賑やかに、ワイワイ食べる食空間(イタリアの味)の提供”というコンセプトにあるのですが、手ごろな価格と肩の凝らない気軽な雰囲気が一体化、これがカプリチョーザの大きな特色といえるのではないでしょうか」((株)ダブリュー・ディー・アイシステム・マーケティング部フランチャイズ開発部栗原寛マネジャー)
店の標準規模は店舗面積四〇~五〇坪、客席数七〇~一〇〇席。店舗造作はモダンでシンプルなつくりだが、客席レイアウトは長テーブルや円卓席も配置、多人数利用を可能にしている。
立地は駅前商店街や繁華街、ショッピングセンター、複合都市施設、ロードサイド(生活道路や幹線道路)など。
店舗出店は直営、FCの二本立て。FCシステムは加盟金四〇〇万円+消費税、ロイヤルティー総売上げの六%、基本設計、厨房設計一〇〇万円、契約期間五年。
加盟金四〇〇万円は高いという印象を受けるが、これはレストランビジネスの「成功ノウハウ」を短日のうちに取得する対価と考えれば納得がいく。ロイヤルティー六%も日本のFCビジネスの水準からすると高いという印象を受けるが、内実を理解すればリーズナブルということになる。
「FCビジネスの本場アメリカにおいては一〇%、一五%というのはざらにありますが、日本では徴収しなかったり、徴収しても一%とか三%程度。五、六%を取るチェーンは限られます。日本では情報やノウハウの提供はビジネスになりにくい面があるのです。
ですから、ロイヤルティーが低いとか、徴収しないという場合は、本部から供給する食材や厨房設備費にマージンをのせておくとか、広告宣伝費などの名目で徴収するということになり、決して低い率ではないのです。私どもは実質的にロイヤルティーオンリー。加盟店の負担を考えて一切マージンはのせておりません」(栗原マネジャー)
本部供給といえば、カプリチョーザの場合は、加盟店が仕入れるものはイタリア直輸入のトマトベースとサラダのドレッシングくらいで、野菜や魚介類などは加盟店に任せている。
もちろん本部は使う食材を指定し、レシピー(クッキングマニュアル)を提供しているわけだが、加盟店における食材仕入れの自由は、本部がそれにマージンをのせていないという証明でもある。
本部が食材を一括して扱わないということは、一方においては管理、デリバリーコストがかからないというメリットもある。
しかし、問題は品質をはじめとして、一定した店舗オペレーションをどう維持させていくかだ。加盟店に自由裁量を与え、FCシステムの縛りを緩くすれば、先行き独走することにもなりかねない。これではFCシステムは崩壊する。
カプリチョーザの場合、加盟店の自主性は食材仕入れに限られるのだが、店の質的コントロールはスーパーバイザーのチェックによって行われている。
料理の質やサービスが低下すれば、業績の低下に現れてくる。これを早い段階でチェックして、店舗スタッフを本部の施設で再教育する。FCシステムとしては当然のことだが、これによってチェーンの一定水準が保たれているのだ。
直営第一号出店が八五年11月(東京・下北沢店)、FC第一号がこの一年後の八六年9月(東京・自由が丘店)の出店。直営一号店を開設してから今年で満一二年になる。
出店はファストフードレストランのように、大量出店とはなっていないが、この9月18日、東京・青山に一〇〇店舗目(直営)をオープンした。
出店の内訳は、直営三〇店、FC七〇店。年平均八店舗の出店ペース。決して多い数字ではないが、これは一定エリアでの“複数出店”を避けていることもあって、おのずと出店の伸びが抑えられる結果となっているのだ。
これによって店舗当たりの集客力が確かなものになる。同一エリア内に出店を集中させれば、やがて自店(グループ)同士が競合し、客を奪い合うということになってしまう。
客に目的志向を持たせ、来店動機を高めさせるためには出店をセーブし、一定数での店舗展開がベターという考え方であるのだ。
「何のためにFC展開をしているかということです。加盟店が集客力を発揮して売上げを上げなければ、本部の利益にもつながらない。どうすれば加盟店の負担が軽減し、収益が確保できるか、FC展開はこのことに尽きるのではないでしょうか」(栗原マネジャー)
FC展開は首都圏を中心に北海道から沖縄まで全国三〇都市に及んでいる。店舗当たりの開設資金は、内外装、厨房設備費、その他を合わせて五〇〇〇~六〇〇〇万円(自己物件の場合)。
売上げは月商一五〇〇~二〇〇〇万円以上。食材コスト二八%。収益性の高い飲食ビジネスであるので、一オーナーが二、三店舗を出店するというケースも珍しくない。加盟店サイドでの多店舗化が進んでいるということだ。
チェーン展開はスケールの拡大にとらわれないが、トータルで三〇〇店舗くらいは出したい。これは西暦二〇〇〇年初頭を目標にした数字だ。
10月内に仙台、栃木、長野、名古屋に出店し、年内に新規に一〇店舗を上乗せする。三〇〇店舗体制を目指して、出店に拍車がかかってきた。
◇会社概要
・企業名/(株)日本ダブリュー・ディー・アイ(WDIグループ)
・店舗運営管理会社/(株)ダブリュー・ディー・アイシステム
・チェーンブランド/イタリア料理「カプリチョーザ」
・創業/一九三四年(昭和9年)4月
・会社設立/一九八二年(昭和57年)2月
・本社所在地/東京都港区六本木五-五-一、ロアビル八階(電話03・3404・3704)
・資本金/一億円
・代表取締役社長/清水洋二
・従業員数/正社員二七〇人、パート七〇〇人
・事業内容/レストランサービスレジャー事業、化粧品販売、海外教育コンサルタント
・決算期/3月
・出店数/直営・FC六九店(九五年度)
・売上高/八七億三〇〇〇万円