低価格時代の外食・飲食店 総合レストラン「ダイナック」

1997.11.17 140号 8面

市場の鈍化、消費の成熟化、競合のし烈化という状況を考えれば、一店一店が強い集客力を発揮していくことが、大きな課題になってくる。不振店と市場ニーズの薄れた業態はスクラップ、市場から撤退するという出店戦略は分かりやすい。しかし、それが真に消費行動や市場の変化に対応したものか、店自体のパワーダウンにあるのか、ことの実相を見極めることは重要だ。資本力があれば、店を出すことは容易だ。しかし、店の集客力を保ち、一定の実績を維持していくことは、結局のところは“人的パワー”にゆだねることになる。ダイナックの出店戦略と現況をレポートする。

ダイナックはサントリー系列の総合レストラン企業で、関東、関西を軸にして全国に二四〇店舗、年間売上高三四五億円(九六年度)の企業規模にある。日経流通新聞が毎年実施している「飲食ランキング調査」(二五〇社)でも、常に三〇位前後の上位にランクしているが、しかし、それとは裏腹に総合レストラン企業としての存在は薄い。業態がバーから高級レストランまで三〇業態におよぶこと、社名とストアブランドが一致しないためもあるが、企業イメージがストレートに消費者に伝わらないのは大きなマイナスだ。総合レストラン企業の大きな強みは、一つの業態にとらわれず、飲食ビジネスを多面的に展開できることにあるが、しかし、それだけに企業、人的パワーが分散するおそれも出てくる。

ダイナックはサントリー系列の外食企業で、来年3月に会社設立四〇年を迎える。一九五八年(昭和33年)3月、サントリーのアルコール商品を消費する目的で、東京・新宿に結婚式、宴会、出張パーティー、レストランの経営会社(株)新宿東京会館を設立した。

現在の社名になったのは八八年(昭和63年)で、親会社サントリーの直営飲食店舗を管理運営する(株)サントリーレストランシステムと合併してからのことだ。

この間に新宿本館ビル内に、トロピカルレストラン「ティキティキ」、居酒屋「たぬき」、バー「フィス」、ワインレストラン「ワインハウス」などをオープンし、店舗出店に弾みをつけた。

出店は一つの業態にこだわらず、年間一〇店前後のペースで展開してきており、既に三〇業態におよぶ出店をみせている。

店舗数は九六年12月期で二四〇店を数えるが、統一したストアブランドでないため、サントリー系の飲食施設と認識する消費者は少ない。

七〇年から八〇年にかけてパブレストランが全盛期だったころ、サントリーを冠した店を多く出店したこともあったが、その後の消費者し好の変化もあって、多くは業態転換し現在はわずかに残るのみだ。

店舗出店は別掲の通り、関東(東京)、関西(大阪)を勢力地盤に、北海道と沖縄を除いて、全国九エリア(ブロック)で推進している。

しかし、店舗出店は関東、関西を軸に「東部事業部門」「西部事業部門」と二分する形で行っている。すなわち、東京本社が東日本を、大阪支社が西日本エリアをカバーするというシステムだ。

FCシステムであれば、「エリアフランチャイザー」というテリトリー方式の店舗展開になるが、ダイナックは直営システムでの出店になるので、本社と支社が分担して多店舗化を推進しているということだ。

だが、本社、支社が分担するといっても単純な区分ではない。関東、関西では立地特性や消費者ニーズ、し好が異なっている面もあるので、これを読み取っての店舗開発であり、店舗出店であるのだ。

たとえば、関西エリアではしゃぶしゃぶ「桂」、イタリアレストラン「サンバレイ」など郊外出店に力を入れ、チェーン化も図ってきているが、関東エリアでは市街地出店で、パスタ&ピザレストラン「サンバレイ」やダイニングバー「膳丸」、居酒屋「たぬき」、シーフードレストラン「マリンクラブ」、バー「ジガーバー」などのチェーン化に力を入れているという具合だ。

大ざっぱにいえば、関西市場はより生活に密着した“実利的な飲食ニーズ”、関東市場は食をレジャー化した“ファッション感覚の飲食ニーズ”で、それに対応した二点軸での出店戦略と理解することができるのだ。

「私どもは単一のチェーンシステムにはありませんので、地域や業態間での出店策や消費者ニーズへの対応を考えておりまして、すべて本社、本部が画一的にコントロールするということにはなっておりません。もちろん、各店舗の数値につきましては本社が把握しておりますが、店舗の運営については現場に任せていることも多いのです」(ダイナック東京本社東部事業部)

前記のしゃぶしゃぶ「桂」、イタリアレストランとパスタ・ピザの「サンバレイ」、ダイニングバー「膳丸」などチェーン化を進めている特定の業態を除けば、食材の仕入れやメニュー政策は店舗サイドに任せている。

二四〇店も展開していれば、食材仕入れの一括化や共通メニュー導入によるCKの保有という考えも出てくるが、ダイナックはそういったトータル志向による「本部システム」(管理機能)にはない。

単一業態であれば、チェーン化によるスケールメリットも出てくるが、ダイナックの出店戦略は地域性や現実の消費者ニーズを汲み上げた考え方であるので、常に業態が拡散する方向にあるわけだ。

本来がアルコール(サントリー商品)を消費する目的でスタートした飲食ビジネスであるので、一つの業態にしばられることなく、アルコールの“販路促進”のためには、フリーハンドであった方がいいわけだ。

しかし、アルコールだけでは店の集客は難しくなる。酒のつまみ、料理が充実していなければ、客は納得しない。

メニュー開発をどうするか。業態開発とメニュー政策は表裏一体のものだが、ダイナックは和洋主体に三〇もの業態を展開しているので、本格派レストランのフランス料理「ル・マエストロポールボキューズトーキョー」、イタリアレストラン「パパミラノ」に象徴されるように、アルコールのつまみからディナー料理まで、メニュー提供は全方位だ。

だが、三〇〇店舗に迫る出店をみていながら、食材の一括仕入れ、共通メニューが手薄というのは、企業努力が足りないという印象も受ける。

モノパターンのチェーン展開でないにしても、三〇〇店舗近くも出店していれば、素材の利用を工夫し、「共通メニュー」を提供しないという手はない。

店舗運営は既に売上げの拡大ではなく、いかにコストをセーブし、収益力を高め、維持するかという時代に入っている。店の顧客離れは何が原因か、収益の低下は何に起因しているのか。消費者ニーズ、し好の変化によるのか、それとも店のオペレーションの低下によるのか。この見極めは大事だ。

店は採算割れをせず、収益が確保できていれば、営業を続けていけるはずだ。売上げが上がらなければ、店をスクラップする。店自体の努力、店を支援する位置にある本部の企業努力はどうであったのか。

生業店、個店経営であれば、簡単に店を出し、短日のうちにスクラップするというわけにはいかない。自身がすべてのリスクをおわされているので、ギリギリの段階までトライする。

そこに創意工夫と店舗運営への情熱が生まれてくる。大資本はある面ではサラリーマン的であるので、売上げが上がらないと店をスクラップする方向に進む。

ダイナックも既存店の大半は、業績は横ばいか前年割れという状況になってきている。新業態の開発、新規出店はイージーだが、既存店を維持していくことは容易ではない。

10月1日、東京・渋谷のJR駅ビル「アトレ恵比寿」に、ワインと欧風料理の新業態「ガーデニングカフェ」を出店した。

攻撃は最大の防御なりという考えもあるが、既存店をどう活性化させ、収益力を上げ、キープしていくかは企業の盛衰を決定する大きなファクターだ。

新業態、新規出店の店を“ロングセラー化”していく“チェーンオペレーション”。ポリネシアンバーレストラン「ティキティキ」、しゃぶしゃぶ「桂」、イタリアレストラン「サンバレイ」などは既に固定化した業態だが、さらに強く消費者にアピールし、求心力をもたせる企業エネルギーが望まれるところだ。

◇出店エリアと店舗数=▽関東地区九五店▽関西地区九二店▽中部地区一一店▽東北地区一一店▽甲信越地区七店▽九州地区六店▽北陸地区五店▽中国地区五店▽四国地区二店▽計九エリア(ブロック)二四〇店舗

◇ダイナックの5大事業戦略

ダイナックは主力の「バーレストラン事業」を軸にして、「郊外店事業」「リゾート事業」「パーティー事業」「ゴルフクラブレストラン事業」の五つの事業部門があり、広角度での飲食ニーズに対応している。

■バーレストラン事業

和洋レストランをはじめ、シーフードレストラン、パブレストラン、エンターテイメントレストラン、バー、ダイニングバーなど業態は三〇を数える。

■郊外店事業

幹線道路や生活道路など郊外住宅街に近接した出店形態で、一九七八年、西宮市にファミリーレストラン「サンバレイ」を出店したのを皮切りに、大阪、神戸を主体にして、しゃぶしゃぶレストラン「桂」、洋食レストラン「プライム」「ブロンコ」、パスタ&ピザ「パパミラノ」、炭火焼き肉「けやき」などを展開。

■リゾート事業

バブル経済がはじけてリゾートビジネスは、勢いを失ってしまっているが、現在までに「ガーラ湯沢スキー場」(新潟)、「イースタンリゾート滋賀」「イースタンリゾート薩摩」「沼尻スキー場」(福島)において大型レストランを展開。

このほか、「白鳥高原リゾートホテル」(岐阜)、「ルネッサンス湯布院」(大分)、「イトシロシャーロットタウン」(岐阜)などのホテル・レストランを運営。

■ゴルフレストラン事業

日本のゴルフの発祥の地「神戸ゴルフ倶楽部」をはじめ、「こだまゴルフクラブ」(埼玉)、「信楽カントリー倶楽部」(滋賀)、「パインレークゴルフクラブ」(徳島)、「新庄アーデンゴルフ倶楽部」(山形)、「鈴鹿の森カントリークラブ」(三重)など全国のリゾート地で、約六〇店のクラブ内レストランを受託運営。

■パーティー事業

出張パーティーの事業展開で、企業、事業所、団体の各種記念行事(式典、祝賀会)、社内運動会、イベントほか、個人、学校、サークルの各種行事などを対象にした小は数人から大は数千人のパーティー。

◇会社概要

・企業名/(株)ダイナック

・チェーンブランド/イタリア料理「サンバレイ」、ダイニングバー「膳丸」、しゃぶしゃぶ「桂」、シーフードレストラン「マリンクラブ」、ポリネシアン・バーレストラン「ティキティキ」、居酒屋「たぬき」、バー「ジガーバー」「バー・ビュー」「バー・ベン」「アリスバー」、その他

・会社設立/一九五八年(昭和33年)3月

・本社所在地/東京都新宿区新宿一-八-一(電話03・3341・4216)

・資本金/一五億二八〇〇万円

・代表取締役会長/佐治信忠

・代表取締役社長/小澤功

・従業員数/一五〇〇人、パート約五〇〇〇人

・事業内容/(1)バーレストラン事業(2)郊外レストラン事業(3)ゴルフクラブレストラン事業(4)リゾート事業(5)パーティー事業

・決算期/12月

・出店数/二四〇店(関東、関西中心に全国展開)

・売上高/三四五億円(九六年12月)

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