飲食店成功の知恵(124)業種編  一膳飯屋

1998.02.02 145号 14面

◆懐かしさと温かみ加え

いまは、食べたいと思った料理は何でも食べられる、といわれている時代である。特に都市部では、あらゆる業種の飲食店が軒を並べているといっていいだろう。ところが、意外な業種が欠落している。ニーズがあるのに満たされていない。それが、この一膳飯屋である。

お客が飲食店を利用するのには、日常的利用動機と非日常的利用動機とがあるが、こと和食に関して、日常的利用動機を満足させているお店は少ない。和食というとたいてい、天ぷら店とか割烹といった特殊なお店になってしまう。そういうお店もランチをやっているが、普通の人が利用しやすいのは居酒屋のランチだったりする。あとはせいぜいコンビニとか弁当惣菜店だ。

ごく普通の和食が食べたいと思っているのは、何も中年以上の世代ばかりではない。若い人たちも、白いご飯で焼き魚や煮物が食べたいと思っているのだが、そういうお店がないのである。

気軽に食べられる和食といえば、かつては定食屋とか大衆食堂があったが、最近はどんどん姿を消している。その理由として、食の洋風化とか多様化がいわれているが、それは一部でしかない。家庭からも町からも「おふくろの味」が消えてしまって、逆にニーズは高まっているのだ。

ではなぜ、定食屋や大衆食堂がなくなってしまったのか。結論からいえば、飲食店としてのレベルが低すぎたからである。定食屋といえば決まりきったメニューでまずくて当たり前。大衆食堂は品目数こそそろえていたものの、中身はないに等しい何でも屋にすぎなかった。また、お店のイメージもいかにもチープなものだった。これではお客に見捨てられても仕方がない。

いまは、飲食店であればおいしいことなど当たり前の時代である。また、いくら日常的利用動機といっても、気持ちが暗くなるようなお店には入らない。一膳飯屋と定食屋の違いはそこにある。飲食店としてのおいしさに懐かしさとか温かみといった、本来の家庭料理の魅力をつけ加えたお店。それが私のいう一膳飯屋なのである。

◆“3点セット”ベースに

したがって、この業種ではまず、従来の定食屋のような「安物売り」の発想を捨てることが前提となる。特別変わったメニューである必要はない。サバの味噌煮とか野菜の田舎煮とか、何の変哲もないメニューだからこそ喜ばれる。普段食べられないから喜ばれるのだ。そこを勘違いしてはいけない。

そういうおかずの一品当たりの量は少なめでいいから、チョイスする楽しみのある品目数は必要だ。ご飯、味噌汁、お新香の三点セットをベースに、好きなおかずを選ぶというシステムである。

こうすることによって、客単価は自然と高くなる。定食屋の押しつけではないから、お客に抵抗感がないのだ。そして、種類が豊富なら、毎日食べても飽きないお店になる。その意味でも、三点セットの品質は大事なポイントだ。

これがまずくては、どんなおかずもおいしく感じられない。業態にかかわらず和食を提供する場合には、和食はこの三点セットだけでも十分に成立するのだということを、もう一度考える必要がある。

一膳飯屋は、お値打ち感はあるがごちそう感はないから、夜の時間帯はアルコールを売ることになるが、ここでも「おふくろの味」を上手に生かしたい。まるで田舎に帰ったような、温かみがあっておいしいつまみのあるお店である。だから、何品か目玉商品をつくれば、あとは昼のメニューの流用でかまわない。ただし、ビール、日本酒については、ある程度のこだわりが求められる。これもまた、画一的な居酒屋との差別化にもなる。

(フードサービスコンサルタントグループ チーフコンサルタント 宇井義行)

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