特集:イタリアンレストラン こんな店が繁盛 陽気、大盛り、居酒屋風

1998.04.06 149号 3面

イタリアンを大きく分けると、有名シェフのいる高級店(客単価八〇〇〇円以上)、雰囲気の良い中級店(客単価三〇〇〇~六〇〇〇円)、カジュアルな店(三〇〇〇円以下)に分かれるだろう。

●--高級店

以前は客単価二万円を超える高級店がイタリアからきたというふれこみだけで繁盛していたが、バブルがはじけてから余程の特徴がないとやっていけないようになってきた。アクア・パッツアやリストランテ・ヒロのように有名なスターシェフが必要になる。またはイル・ボッカネロのようにサービスに工夫を凝らさなければならない。

帝国ホテルはプルニエをイタリアンに変更して大盛況だ。だからといって単にフレンチからイタリアンに変更して成功するというわけではない。帝国ホテルは女性向けの宿泊キャンペーンを長く続けており、その顧客リストを活用した販売促進がイタリアンとぴったりと合ったということだ。

大阪ハイアットリージェンシーのバジリコも大盛況だが、メニュー構成に工夫を凝らし、関西で好まれる魚介類、特に、オマールエビのパスタなどを出して人気を呼んでいる。味だけでなく店の雰囲気もカジュアルでありながらしゃれた雰囲気を醸し出し、立地が悪いにもかかわらず大盛況だ。このゾーンの店舗はかなり特徴が必要だ。

●--中級店

フレンチなどから客を取っているのがこの三〇〇〇~六〇〇〇円のランクであり、その代表はセランだろう。元は無国籍料理ということでいろいろな料理を出していたが、特徴を出さなくてはいけないためにイタリアンに特化し、三五〇〇円からのコース料理を出して、雰囲気と相まって大繁盛している。

この客層は圧倒的に女性や若いカップルであり、フレンチのようなかたい雰囲気でない、カジュアルなサービスが売り物だ。キハチもそうだがこの店は特に顧客との会話が楽しめるようにしており、顧客の年齢層に近い従業員を採用し積極的なサービスを心がけている。特にオープンキッチンと神宮外苑というオープンスペースを使い、独特のファッショナブルな雰囲気を醸し出している。

柏の一六号線沿いにあるコメスタも何でこんな場所に繁盛店があるのだろうと不思議な店だ。しかし、オーナーやマネジャーの顧客を楽しませようという雰囲気作りで大人気だ。興に乗ってくるとマネジャーが突然カンツォーネを歌ってくれたりする。

●--カジュアル店

このゾーンはさらにいろいろ分類ができる。

<パスタとピザ>

イタリアンのメーンのマーケットが日本人の好きなピザとスパゲティを出す店だろう。このジャンルでは本格的なイタリアンよりもカリフォルニアイタリアンのカリフォルニアピザキッチンや、ウオルフギャングパックを参考にした店舗群だ。ベリーニカフェ、カプリチョーザ、アマート・アマート、タント・タント、ピエトロ、パッパガッロなどが代表だ。

価格はやや低めで二〇〇〇円前後と、ファッショナブルでなくなったファミリーレストランに飽き足りない若者を集めて大人気だ。このジャンルはピザとパスタ、サラダをしっかり充実させている。店の雰囲気はオープンキッチンでカジュアルで気楽に入れる。

カプリチョーザやパッパガッロなどは大人気で、開店前に行列ができるほどの人気だが、その最大の理由がボリュームだ。サラダやスパゲティなど思わずため息が出るほどの(二人前くらいの)分量が出てくるのが人気が続く理由だろう。

<和風パスタ>

渋谷にあった壁の穴(今は経営が代わりチェーン化をしている)が始めた和風スパゲティも強い人気がある。その流れをくんだのはハシヤ、ピエトロのパスタ、アルデン亭などであり、根強い人気を持っている。

スパゲティはゆで上げの腰の強い本格的な麺を使用する。当然のことながらオープンキッチンスタイルのカウンターがあり、料理を楽しませるという工夫が必要だ。和風のアサリや、納豆、キムチ、明太子などのほかに魚介類を使ったり、フライパンで炒める場合も醤油味など徹底的な和風の味付けが重要だ。

<女性向け居酒屋>

パスタとピザの店は繁盛しているのだが、女性の比率が多すぎ客単価があまり取れないという欠点を補うのが、女性向けの居酒屋としてのイタリアンだ。その代表的なのが、ツチ・バヌーチだ。

ダスキンが米国シカゴのレストラン王といわれている、リチャード・メルマン氏の率いるレタスエンターテインユー社との提携で作り上げたレストランで、六年前に大阪の江坂に一号店を開店した。しかし、最初の二年ほどは大苦戦を強いられ、大きくコンセプトを変更した。特にメニューを日本人に合うようにした。

サラダでイタリアンといえば本格的なフレッシュモッツァレラチーズとトマトのメニューを出していた。しかしチーズの日持ちが悪く、原材料コストも高いので一皿二〇〇〇円で売らなくてはいけなかった。材料費は高いのに日本人の口に合わず売れなかったわけだ。

その対策として日本人に合う味の開発を行った。イタリアや米国ではチーズは安いのだが日本は高い。その柔らかな触感からヒントを得て、日本で安くて好まれる豆腐を使い、ドレッシングを中華風にしたサラダを考案した。その結果このメニューが一番人気となり、二二〇〇円だった売価を五九〇円にしたが、二〇倍の売上げとなり、利益も出るようになった。

また、居酒屋からヒントを得て、座ったら飲み物と同時に出るような日本でいう突き出し風の低価格のメニューも考えた。

さらにサービス面でもいろいろ工夫を凝らした。ナイフ、フォークをバスケットに入れテーブルに置くだけでなくおはしをつけた。そして、ピザなどを出すときに大きな業務用のトマト缶をテーブルの上に二つ置き、その上に木の皿に置いた大型のピザを置いたりして、ほかのテーブルに座った客が思わず追加注文したくなるような工夫を凝らした。

従業員はアルバイトが中心だが、時間と働ける曜日を三ヵ月単位で決めるなど固定客の確保を心がけた。

内部固めと同時に外に対するアピールを向上させた。もともとやや暗い落ち着いた店の雰囲気で、何屋かわかりにくい、値段が高そう、というイメージがあったので、外に目立つように大きなトマトの看板とメニューコルトンを出し、気楽に入れるようにした。

その結果、オープン後は低迷し一九〇〇万円まで売上げが落ちたものを、月商三〇〇〇万円を超えるまでに回復させ、繁忙月には四〇〇〇万円を売るほどの大繁盛店に仕上げた。

女性向けの居酒屋であり、客単価二五〇〇円、七五%が女性客だ。そして居酒屋と同じく一〇人以上のパーティーのニーズが高い。イタリアンをよく考えたら、大盛りのスパゲティ、大きなピザ、ざっくり盛り合わせたアンティパスなど、みんなでわいわいがやがや突っつき合う日本の居酒屋と同じではないか。これがこれからの繁盛の秘けつだろう。

これからの方向

イタリアンが成功している一番のポイントは、カジュアルでファッショナブルということで、女性に人気があるということだろう。特に女性を意識した居酒屋というのは大変わかりやすいコンセプトだ。

料理として大事なのは、求めやすいグラスワイン、たっぷりとした量のピザとスパゲティ、サラダだ。女性客だから味付けだけでなく、盛りつけのきれいさや意外性が大事だ。そして決定打はデザートだ。どんなにおいしい料理を出してもデザートがまずいと二度と来てくれない。デザートは決して手を抜いてはいけないということだ。

最後は店の雰囲気とデザインだ。トレンディーな店の雰囲気の中でフランクなサービスをきっちりと提供できたら成功間違いない。イタリアンも多すぎて、これから差別化の時代が始まる。

自分の店の位置づけをどう置くか、明確に取組む必要が出てくるだろう。

◆筆者=王利彰氏((有)清晃代表取締役)昭和22年、東京都出身。立教大学法学部卒。家業の飲食店経営を経てレストラン西武入社、ダンキンドーナツの設立と多店舗化に貢献。その後、日本マクドナルド入社、駐米代表などを歴任し、コンサルタントに転身。米国外食事情通として業態を問わず幅広く活躍。厨房関連、ハセップ(衛生管理)のほか、インターネットなどの情報分野で指導力を発揮している。

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