新店ウォッチング:パシフィックリム料理「エイジア」
昨今の外食新業態の話題のひとつと言えば、やはりKFCが恵比寿に開業した飲食ビルではないだろうか、ということで、開業後およそ一ヵ月後の3月初旬に恵比寿の入船ビルへと出向いてみた。
同ビルはJR恵比寿駅の駅ビル「アトレ」西口にある巨大なエスカレーターから駅前の小さなロータリーを挟み正面に眺められる。
一~二階はすでに原宿表参道などに出店している「ハーべスター」業態であり、狭い路地を挟んですぐ隣りにはウエンディーズが出店するなど周辺は飲食店の激烈な競争地域であるが、ここ数年、恵比寿は都心に住む若い客層を中心に気の利いた飲食店のある街というイメージが定着している。KFCが狙うヤングミセスなどへ向けた新業態の提案場所としては最高の立地といって良いだろう。
地階と階上の店舗へは、建物脇のエレベーターで導入されるのだが、紙面の都合ですべての店の紹介は難しいため、今回は五~六階のエスニック系業態「エイジア」を訪れてみた。
「パシフィックリム・キュイジーヌ(環太平洋料理)」と銘打つエイジアは、六階がエントランスで、店内の中階段で五階へ降りる二層式の珍しいフロア構成だ。
店内は明るく、もともとはオフィス仕様であったと思われるペンシル・ビルの内部を効率的に活用している。内装はチェーン展開を意識したローコストタイプであるが、店内の随所にオリエンタル趣味の小物やオブジェが配置され、オープン・キッチンの外観はリゾート地の屋台を模したもので、ダミーのスレート葺き小屋根までついている。
秀逸なのはこのキッチンである。壁面にごく淡いブルーを基調にした絵柄入りのタイルを使用して、店内の内装とは趣を異にした近代的なキッチンであり、昨今の潔癖な女性客にとっては非常に安心感を与える要素となるだろう。
客席では壁面に投影された動くロゴマークがちょっと楽しい。また五階には大テーブルのほか、セミオープンの個室も設けられており、多様な顧客に対応できるスタイルとなっている。
さらにトイレ内部の清潔感と、器具や備品への気配りにもチェーンの実力が感じられる。手洗いや鏡まわりの処理には女性客の好感度が高まるはずだ。
食器はすべてロゴマーク入りのオリジナルであり、変形の楕円皿がユニークである。
しかし何といってもポイントが高いのは料理の完成度であろう。特に、恐らく店外で下処理を済ませたと思われるチキンを活用したいくつかの料理は専門店料理として十分通用する。また、各料理に合わせて提供されるさまざまな調味料がさらに味を引き立てている。ベトナム料理の第一人者といわれる鹿島シェフの面目躍如というところであろうか。
<所在地=東京都渋谷区恵比寿西一-九-三、恵比寿入船ビル、オープン=一九九八年2月7日>
◆焼肉「牛傅」(九階)=店舗面積九八㎡、客席数四三席(一一室)、営業時間午前11時30分~午後11時(無休、以下同)、客単価ランチ一二〇〇~二〇〇〇円、ディナー四〇〇〇円前後、電話03・5489・2941
◆パシフィックリム料理「エイジア」(五~六階)=店舗面積一五九㎡、客席数九九席、営業時間午前11時~午後11時、客単価ランチ一二〇〇円前後、ディナー四〇〇〇円前後、電話03・5456・4907
◆イタリア料理「イル・チェント」(三~四階)=店舗面積一五九㎡、客席数五七席、営業時間午前8時~午後2時、客単価ランチ九〇〇~一五〇〇円、ディナー二五〇〇~三〇〇〇円、電話03・5456・4905
◆「ハーベスター」(一~二階)=店舗面積一九〇㎡、客席数七八席、営業時間午前10時~午後10時、客単価六八〇円~、電話03・5456・4903
◆串焼き酒処「一番どり」(地下一階)=店舗面積七九㎡、客席数五四席、営業時間午前11時30分~午後2時、5時~11時、客単価ランチ五五〇円~、ディナー二四〇〇円前後、電話03・5458・4194
取材者の視点
時代の影響もあるのだろうが、ここへ来て外食チェーン先発組の戦略にかなり明確な違いが出始めてきている。例えば、私見だが、マクドナルドはすでにブランドのライフサイクルを成熟期の後半とみなしてリストラに入っているのではないか。
こう考えれば、賛否両論の低価格戦略もサテライト店舗の急激な拡大策もすべて納得がいく。恐らくサテライト店展開の最も大きな要因は、現場社員の高年齢化であろう。
業界メディアによれば、KFCは既存の不採算店のスクラップ&ビルドで収益性の改善を図ろうという戦略であるらしい。KFCの辛いところは、フランチャイズ(FC)展開企業であるということだ。しかも相手は個人オーナーではなくエリアFC企業である。
特定市場において圧倒的なシェアを持つKFCは、市場の動向をみればマクドナルドに準じて低価格路線へと移行したいところであろうが、そうなればフランチャイジーの猛反発は必至だ。FC企業のリストラ策がみな中途半端なのはそのあたりが原因なのだろう。
また、あまり意識されていないことだが、テークアウトやFFS業態とテーブルサービス業態では、お客にとっての顧客満足構造が全く違う。帰り際に会計するテーブルサービス業態では、お客はそれまで店内で過ごした時間すべてと支払う料金とを常に天秤にかけているのだ。
新業態として時間消費型のテーブルサービス業態を選ぶのであれば、FFSとは全く異なるサービス・オペレーションの仕組みを作り上げる必要があるはずだ。特にこの店舗規模と価格帯では、その重要性はさらに増すはずである。
これらの新業態が花開くかどうかは、ひとえにそこにかかっているのではないだろうか。
◆筆者紹介 商業環境研究所・入江直之=店舗プロデューサーとして数多くの企画、運営を手がけた後、SCの企画業務などを経て、商業環境研究所を設立し独立。「情報化ではなく、情報活用を」をテーマに、飲食店のみならず流通サービス業全般の活性化・情報化支援など手がける。