スペイン食材情報:伝統食材「ハモン」
日本への輸入が解禁されたスペインの伝統的食材の生ハムは、今年3月のFOODEXを契機にして、専門商社や食肉加工メーカーが、本格的な輸入を開始している。スペイン旅行で「シェリー酒と味わったハモンの味をもう一度」とばかりに、スーパーやデパートの店頭にも並びはじめられると同時に、飲食業界でのメニューへの取り入れも始まっている。
スペイン産の生ハム「ハモン」は、イベリコ豚を原料とした「ハモン・イベリコ」、白豚系を原料とした「ハモン・セラーノ」に大別される。スペイン産生ハムを代表する二つのハモンの生産地は、アンダルシア州に集中しているといってもよい。豚の放牧飼育と自然熟成といった伝統的な手法から、ほとんどが標高一六〇〇m前後の山間部が生産地である。
ハモン・イベリコは、ローマ時代からの純粋なイベリコ種一〇〇%豚を、放牧しながら、樫の木やコルク樫になる「どんぐりの実」と牧草を餌にして育てられる。どんぐりの実から炭水化物を吸収し脂肪に転換させ、牧草を食べることによって成長に必要なミネラルやタンパク質を摂取している。
生後一年の一〇〇㎏の豚をこの方法で放牧飼育して一五〇㎏にまで育て上げる。これは帝政ローマ時代からのもので、この伝統的なシステムをモンタネラ方式と呼んでいる。
このイベリコ種豚の中でも、肉の増産から混血種が多くなっている。品質面からは、一〇〇%イベリコ種の豚が最高だが、今では混血種も多く、純粋種は少なくなってきているという。
イベリコ豚は、脂肪を体内の筋肉の中に吸収するのに特別な代謝機能をもっている種類の豚である。現地の生産者は「日本の神戸牛のようなものと考えていただければ良いと思う。神戸牛はマーサージなどをするが、この種に関しては、豚独自が運動することによって、脂肪を筋肉に吸収する体質をもっている」という。
どんぐりと牧草だけで放牧・飼育されたイベリコ種豚で作られた生ハムが、最高級品の「ハモン・イベリコ・デ・ベジョタ」という名称が与えられる。ベジョタとは、どんぐりの実という意味である。
この種は、熟成・乾燥段階からも、ヨーロッパ各国の高級レストランの買いが入るほどの人気食材である。その下のランクが「レセボ」のネーミングで出回っている。レセボは、飼料を与えたという意味。どんぐりが気象条件で実らなかった場合などは、そうせざるを得ないというのだ。
そして三番目のカテゴリーに「ピエンソ」があるが、飼料(ピエンソ)のみで育てたイベリコ豚。現地では「これは、ハモン・イベリコの写真にすらならない」とはき捨てるほど。
スペインでのイベリコ種豚の飼育頭数は、年間で約一五〇万頭程度とされ、そのうち最高級品の「ベジョタ」が二〇万頭、次の「レセボ」が五〇~六〇万頭、残りが「ピエンソ」という構成比だが、最高級品の「ベジョタ」は、気候条件によっても生産量が左右される。
ハモン・セラーノは、イベリコ種豚ではない交配種の白豚を原料としている。その由来は、白豚(ラージホワイト、ペトレイン、ラージブラック、バークシャなど)肉の「脚部」、セラーノ(Serrano)が「山の」という意味であり、つまりは「山のハム」ということからハモン・セラーノとされる。
一八六二年、時の女王イザベル二世から品質が認められて勲章が付与されて、その勲章の図柄か生ハムの刻印に用いられているアンダルシア州の「DO・ハモン・デ・トレベレス」に代表される。機械的な手法はとらず、あくまでも手作りの伝統的な手法に従っている。
「生ハムを良く知り尽くした職人芸によって作り出される。人工的な手法は熟成のための温度調整に窓の開け閉めだけ。あとは最初から最後の工程まですべて自然乾燥法で行っている」と胸を張る。
証拠にイザベル女王からも「人工的な手を加えず、(中略)海塩だけを使い、厳選された純種豚から造られた手作りの逸品」というお墨付きが勲章に添えられている。
スペインの生ハムにも、ワインやオリーブオイルのように原産地呼称DO制度があり、産地や生産方法の基準により統制されている。スペイン産生ハムもこれまでのように、スペイン旅行やスペインレストランと限られた場所から日本全国どこでも味わえるようになった。
高級的なオードブルからサンドイッチやサラダ食材としても容易に入手できるようになったが、豚の種類や産地、飼育期間、熟成期間、製造方法、原産地呼称の有無などにより、品質に大きな違いが出てくるだけに、食材仕入先や専門商社に相談されて、スタートしたばかりの新食材・スペイン産ハモンを、早めの採り入れでオードブルをはじめとする新メニューの開発に挑戦してはいかがでしょうか。