これでいいのか辛口!チェーンストアにもの申す(49)グローバルダイニング
東京の繁盛レストランといえば、必ず名前のあがるチェーンがある。「ラ・ボエム」や「モンスーンカフェ」「ゼスト」を展開する、(株)グローバルダイニング(長谷川耕造社長、本社・東京、年商一〇〇億円、東京証券取引所二部上場)がそれ。このグローバルダイニングの繁盛要因の一つに、店長への大胆な権限委譲とその成果に見合ったインセンティブ給与がある。インセンティブ給与とは、業績に応じて支払われるボーナスのことである。例えばグローバルダイニングでは、二〇歳代の店長クラスで年俸が二〇〇〇万円を超える人たちが活躍しているというのだ。
「二〇歳代の若造が、そんなに給料をもらって大丈夫なのか」。年功序列の日本型企業組織に慣れ親しんできたオヤジたちは、一応にそういぶかしむ。当然、自分の部下が自分より給与が高いという現象も起こり得る。ほとんどの企業幹部にとって、目下の部下が自分より給料が多いということがあってはならない。それでは組織は成り立たない。これが今までの日本型経営である。こうした常識ゆえに、主要な外食経営誌はグローバルダイニングを異端児扱いし、このインセンティブ給与を真正面から取上げようとはしない。
「グローバルスタンダード(世界標準)に対応せよ!」といわれる。バブル崩壊以後、「もう日本型年功序列制度の組織では、世界企業と戦えない!」と叫ばれてきた。多くの企業はリストラを実施。だが中身は変わっていない。グローバルダイニングのような大胆なインセンティブ給与を制度化している企業は見つからない。
大手の外食チェーンの、デニーズにもすかいらーくにもロイヤルにも、「年俸制」「業績給与」は形だけ導入されている。しかし、そんなわずかなプラスアルファのボーナスを期待して頑張っている店長を見たことがない。なぜなら、この「年俸制」「業績給与」は、給料を抑えるために導入された給料抑止制度に過ぎない。
それに、インセンティブ給与の前提には、「店舗経営を大胆に任せる」という権限委譲が絶対的条件である。
「本部が決めたマニュアルを、多少変更してでもお客様サービスに邁進しなければ、大きな業績向上は実現できない」ため、どの店も同じやり方、どの従業員も同じ言葉をしゃべり、愛想のなさまで同じというチェーンストアには、まねのできないところだ。
筆者はこの12月、大手企業の役員経験者の“脱サラ居酒屋開業”をお手伝いした。そこでアルバイトを対象に、インセンティブ給与を導入したところ大きな成果を得た。
店にキープするボトルを取ったバイトに、一本三五〇円のインセンティブ(キャッシュ・バック)をつけたのである。何度も何度も朝礼でお勧めを練習し、バックヤードにグラフも張り出した。ボトルキープをいただいた瞬間、「二番テーブル、ボトルキープいただきました!」の声に、店内は大きく拍手の嵐で盛り上がった。先月最後の朝礼で、五〇本取った女子学生が現金の入った封筒を握り締め、感激のあまり泣き出した。「お金だけがすべてではない。しかしお金はやる気を引き出す重要なファクターである」と、この涙を見ながら、飲食業って感度業だなと思うのである。
((有)日本フードサービスブレイン・高桑隆)