うまいぞ!地の野菜(34)京都府現地ルポおもしろ野菜発見「賀茂なす」
「子供のころ冬になると、この辺りの畑はスグキ(カブ)の葉っぱで真っ青になったものです」と懐かしそうに語る東良由信さん(38)。
かつて京の都の野菜産地として栄えた上賀茂の畑も、今では時代の流れとともに住宅地に様変わりしている。
東良さんは上賀茂地区で先祖代々から譲り受けた一町の土地を耕す農家。夏の賀茂なすをはじめ、伏見とうがらし、三度枝豆、トマト、キュウリ、ジャガ芋、ホウレンソウなど、また冬には特産のスグキと幅広い種類の野菜を栽培する。
母親が賀茂女(かもめ)といわれる「商い」で京の街に季節の野菜を売りに行くための品ぞろえだ。
この地で、一二年前「上賀茂特産野菜研究会」が結成された。
当時、ブランド志向から京野菜ブームが巻き起こり、各地で便乗生産が相次ぎ、古くから賀茂なすを生産している上賀茂地区では、「まがいものが出回る中、本場の味を知らしめよう」との思いから地元生産者で会をスタートさせた。
現在の会員数は一七人。こうした会では若い平均年齢五〇歳。栽培面積二五a、平均出荷量は約二万四〇〇〇個になる。 縁起の良いものとして昔から「一富士二鷹三茄子(なすび)」といわれてきた。また「秋ナスは嫁に食わすな」などの諺が生まれるほど庶民の野菜として親しまれてきたナス。
戦後の生食文化の普及とともに、地域色のあったナスも次第に数少なくなり、今では中長ナスが主流。その中で、丸ナス系賀茂なすの存在は際だっている。
賀茂なすの起源は、江戸時代に刊行された『雍州府志』によると、御所に献上されたナスが左京区田中辺りで栽培されたのが始まりという。それが明治初期、上賀茂地区で栽培されるようになり、京の町ではしぎ焼き、田楽などの「おばんざい」として浸透していった。
上賀茂特産野菜研究会は、京都の伝統野菜として市から委託されての栽培。3月半ばになると、種も苗も管理され約二〇センチメートルに生長した苗木が届けられ、これを定植し育てていく。
賀茂なすは、適度の水分を好み、多すぎると病気になりやすい。また日差しが強すぎると色艶がなくなり、独特の風合いが薄れてくる大変デリケートな野菜。
「収穫期の5月末は梅雨の真っ盛り。毎日の天気に一喜一憂しています」
一本に三枝、一枝に五個を収穫するよう枝や花を選定し、色艶をよくするため陽を遮る葉は適宜取り除くなど、一つ一つに目配りをしなければならない。
肥料も、以前は牛糞を使っていたが、周りの住宅から苦情が出て以来、木のくずを使ったバーク堆肥に切り替えた。
手塩にかけて育てた賀茂なすは、まさに芸術品。栽培地を広げて多くの人に食べて欲しいところだが、「エゴになるが、この土地だからできるもの。ほかの地ではできない特産品として守っていきたい」と言い切る。
かつては家庭の味として親しまれた賀茂なすも、高級品という差別化で生きる道筋をつくったようだ。
■生産者=上賀茂特産野菜研究会・東良由信(京都市北区上賀茂向梅町一六、電話075・781・1354、FAXも同じ)
■販売者=JA京都上賀茂支店(京都市北区上賀茂烏帽子ヶ垣内町一、電話075・791・7872、FAX075・701・0558)
■価格=ほとんどが京都中央市場に出荷している。宅配可。一箱六個入り二五〇〇円。一個が約五〇〇g。