新店ウォッチング:「ニューヨーカーズ・カフェ」高田馬場一丁目店

2001.10.01 237号 8面

老舗喫茶店チェーンの雄、「ルノアール」が、実験的な一号店での約二年間の営業を踏まえて、この春から、多店舗化に向けたセルフ方式の新業態「ニューヨーカーズ・カフェ」を本格的にスタートさせた。

「ニューヨーカーズ・カフェ」は、一九九九年6月から同社が東京・日本橋で実験的な店舗として営業を続けてきたセルフ方式のコーヒー店業態であるが、今年4月に、同社がドミナントを形成する東京・新宿区のJR山手線高田馬場駅近くの既存店「ルノアール」を改装して、多店舗化へ向けた新しいスタイルの店舗をオープンさせた。

チェーン化へ向けた新タイプでの一号店となる高田馬場一丁目店は、JR高田馬場駅戸山口近くに位置し、店舗規模は約一〇〇席と、先行するスターバックスカフェなどといったセルフ業態カフェの大型旗艦店に匹敵する大きさである。

赤を基調にしたサインで構成されていた日本橋店とは変わって、同店の外観は濃いめのブルーを中心にした壁面に大きな浮き出しのロゴマークが配置され、湯気の立つコーヒーカップをあしらったシンボルマークと、テントの張り出した小さなテラス席が特徴となっている。

天井の高い店内は、大きくふたつのゾーンに分かれており、入口を入って手前側の大テーブルのあるフロアは禁煙席、一段高くなった奥のソファ席を中心にしたフロアは喫煙席というゾーン構成である。

内装は、パステル系の色使いと木材のナチュラルな材質を生かしたデザインで、かなり多くの色数を使用していながら、全体としてのイメージは散漫にならず、落ち着いた雰囲気にまとまっており、紫色の切り子ガラス風のペンダント照明や、カウンター上部の照明器具など、高い天井高を生かした空間の処理もうまい。

また、黒色で縁取りされたガラス窓の上部などには、シンボルマークのコーヒーカップの「湯気」の部分だけをモチーフにしたデザイン処理が施されている。

ドリンク商品は、先行チェーンであるスターバックスカフェやドトールのエクセシオールカフェとほぼ同じスタイルのラインアップ、サイズ構成となっているが、エスプレッソ(シングル一八〇円、ダブル二三〇円、トリプル二八〇円)、ブレンドコーヒー(スモール二〇〇円、ミディアム二五〇円、ラージ三〇〇円)という価格が示すように、微妙に低価格路線を打ち出しており、今後、セルフ方式カフェの競合地域への出店の際にも、この価格帯が差別化を図る要素となることだろう。

ドリンク商品以外にも、各種ケーキや、スコーンのようなスナック商品、フォカッチャサンド(三三〇円から)、バゲットサンド(二八〇円から)といったサンドイッチ類など、既存業態の「ルノアール」では品ぞろえのなかった分野の商品も数多く取りそろえられている。

同社は、都内の主要な駅前などに、ドミナント・エリアを形成しながら集中出店しているが、今後、ドミナントごとに一店舗はこの「ニューヨーカーズ・カフェ」業態に転換し、約一二〇店舗強のチェーン全店のうち、およそ一割程度をセルフ方式の店舗にするという計画であるようだ。

◇店舗データ

◆「ニューヨーカーズ・カフェ」高田馬場一丁目店((株)銀座ルノアール、東京都新宿区高田馬場一‐三三‐一三、千年ビル一階)開業=二〇〇一年4月21日、店舗面積=一六五平方メートル、客席数=約一〇〇席、営業時間=午前7時~午後10時30分(月~土)、午前7時30分~午後10時30分(日・祝)

◆取材者の視点

バブルの時期に、地価の高騰にたえられず、ほとんど都心部から姿を消してしまった「喫茶店」というフォーマットを、今でも中心業態として掲げている唯一ともいえる老舗チェーン「ルノアール」であるが、日本国中が浮わついていたあの時期でさえも、決して安易な出店を行わなかったその健全な経営方針と慎重な出店政策は、業界でも定評がある。

そうした同社が、満を持して送り出した新業態なのであるが、どことなく先行チェーンのスタイルを踏襲した感のある店舗と業態の設定は、少しばかり期待外れであったことは否めない。

都市部では電車による移動が中心で、住環境やオフィス環境の悪さから、ビジネスの打ち合わせをはじめとして知人との語らいですら飲食店で行うことの多い日本にあって、外国にはない独自の展開を遂げた「喫茶店」というフォーマットを守り続けて来た「ルノアール」は、いまだに多くのファンを持つ飲食チェーンだ。

こういう筆者自身も、しばしば仕事の打ち合わせなどに利用しているが、こうした「喫茶店」の利用ニーズは、決してなくなってしまったわけではない。

わざわざ既存の価格帯を捨ててまで戦国時代の低価格フォーマットへ進出することよりも、「ルノアール」業態のブラッシュアップで、より幅広い客層を狙って、満足度を上げる業態リニューアルの方を期待するのは、無理な注文なのだろうか。

また、若い女性客などを狙うつもりなのであれば、商品構成やデザイン面などのスタイルだけをまねるのではなく、既存の外部トイレの使用は止めて、店内に新しくトイレを設けるといった工夫も必要なのではないだろうか。

◆筆者紹介◆ 商業環境研究所・入江直之=店舗プロデューサーとして数多くの企画・運営を手がけ、SCの企画業務などを経て商業環境研究所を設立し独立。「情報化ではなく、情報活用を」をテーマに、飲食店のみならず流通サービス業全般の活性化・情報化支援などを幅広く手がける。

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