近代メニューのルーツ(1)カツ丼・ソースカツ丼編 福井市・ヨーロッパ軒総本店

2003.02.03 265号 12面

数ある丼物メニューのなかでも、人気ナンバーワンといえば「カツ丼」だ。カツ丼には、「卵とじ型」と「ソースカツ型」の二つがある。今でこそ卵とじ型が主流だが、カツ丼のルーツはソースカツ丼だというのが定説だ。その起源にも諸説がある。今回はソースカツ丼のルーツを探ってみた。

東京などの飲食店でカツ丼と頼めば、ご飯の上に卵でとじたカツをのせたものがでてくる。ところが福井県では、ソースをまぶしたご飯の上に揚げたカツをのせたソースカツ丼をカツ丼と呼ぶ。

ソースカツ丼は、大正10年に早稲田高等学院の学生・中西敬二郎氏が考案したという説もある。しかし、福井県の「ヨーロッパ軒」のソースカツ丼の起源説が有力だ。

その理由は、この店の初代社長・高畠増太郎(たかばたけ・ますたろう)氏にある。

高畠氏は、明治39年に西洋料理人を目指してドイツにわたり、後に天皇の料理番となる秋山徳蔵氏らとベルリンの日本人倶楽部で六年間料理を学んだ。

明治45年に帰国し、大正2年に東京都早稲田鶴巻町(新宿区)にヨーロッパ軒を開業。同年、東京で開催された料理発表会で「日本でもドイツ仕込みのウスターソースを広めたい」と考案して披露した料理が(ソース)カツ丼だったといわれている。

その後、横須賀市追浜にも出店したが、関東大震災で被災したため、故郷の福井に戻り、大正12年、片町にヨーロッパ軒を再開してソースカツ丼を広めたという。

その後、東京では卵とじ型が誕生し主流になるが、福井ではソースカツ丼が、卵とじ型カツ丼より早く普及したので、カツ丼といえばソースカツ丼を指すようになったという。

ヨーロッパ軒のソースカツ丼の特徴は、ソースをまぶしたご飯に、きめ細かいパン粉であげた歯ざわりの良いカツが乗っていること。

ソースは、ウスターソースをベースに各種の香辛料を加えた秘伝の味だ。

この店は現在、カツ丼(八二〇円)始め洋食を中心としたメニューで、片町の総本店ほか福井県内に一八の分・支店を展開している。

元祖ソースカツ丼の甘みと酸味がほどよくマッチしたまろやかな味にひかれて、県外から観光バスで来る客も多い超人気店だ。

◆店舗メモ

◆ヨーロッパ軒総本店/所在地=福井市順化一‐七‐四、電話0766・21・4681/営業時間=午前11時~午後8時、火曜定休/メニュー=カツ丼(八二〇円)、ビーフカツ丼(一一七〇円)、パリ丼(ミンチカツ丼八二〇円)、エビ丼(八二〇円)/総本店のほかに一八支・分店(すべて福井県内)がある。

◆一口メモ

ソースカツ丼は、福井のほか長野県や群馬県にもある。この三つの県を通る街道は、生糸のシルクロードと呼ばれ、行商人の行き来があった。その流れでソースカツ丼が伝わっていったという説もある。ほかに東京でソースカツ丼を知った料理人が関東大震災後に帰郷して各地で広めたのではないかともいわれている。

◆店主のコメント (有)ヨーロッパ軒総本店代表取締役社長 高畠範行氏

この店は今年で創業九〇周年を迎えます。店名は、創業者がヨーロッパで修業したことに由来します。当時としてはかなりハイカラな名前だったようです。そのころはソース自体も珍しく、ソースをご飯にかけて食べることもあったようです。

カツ丼は、そのソースかけご飯にあうものを、と考えて作られたと聞いています。当店のソースカツ丼は、創業以来変わらない秘伝の味です。ぜひ、歴史あるソースカツ丼を食べにお出かけください。

◆この食材を愛用しています ウスターソース

自家製オリジナルソースは、初代・高畠増太郎さんが、独自にレシピを書いた秘伝のソース。ほんのりと甘く、それでいて香辛料のきいたさっぱりとした味が魅力だ。カツにつけるだけでなく、ご飯にもまぶして使うが、しつこさが全くないので万人に好まれるという。その味のベースに使われているのが、イカリソース(株)のウスターソース。多種の野菜と果物に香辛料が巧みにブレンドされたコクのある味は、明治29年の会社創業以来変わらない。ドイツで西洋料理を学んだ高畠さんの目指したソースの味に一番近かった味ともいえるようだ。

●イカリソース(株)(大阪市福島区福島三‐一‐五九、電話06・6452・1290)

◆この食材を愛用しています 月特パン粉

この店のカツは、きめの細かいパン粉に包まれたふっくらと軟らかいもの。余計な衣に包まれていない分、油っこさがなく口あたりがよいのが人気だ。

その秘密は、店特製の極細パン粉にあるが、その原料になっているのが(株)トリイパン粉の月特パン粉。極細なので、肉の外につけて揚げても肉本来の味が引き出せる。そのうえオリジナルのソースともよくなじむので、店伝統の味作りには欠かせない存在となっている。

●(株)トリイパン粉(愛知県宝飯郡一宮町大字一宮字上親切四三八番地、電話0533・93・3381)

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