トップインタビュー:際コーポレーション・中島武代表取締役社長

2005.03.07 297号 3面

「紅虎餃子房」など、どこにもない個性的な外食店を次々と開発している際コーポレーション。外食のコンセプトリーダーとして、常に新しい業態開発に取組んできた中島社長だが、今年は原点回帰の傾向になると予測している。消費者は食に対する驚きに飽きて、これからしばらくは安心感へとニーズが変化しているためだという。外食が高齢社会で果たす役割の大きさなど、今後の外食トレンドを予測してもらった。

‐‐中島社長は、これまでの外食を振り返り、今後は基本に戻る状況になるだろうと予測する。

「外食分野はいろいろなジャンルや有名シェフ、こだわり食材など、あらゆるものが出尽くしてしまい、だんだん基本に戻ってきている状況ではないかと思う。月が満ちれば欠けるように、外食も満ちてしまって、これからはだんだん欠けていく状況ではないか」

「奇をてらったり、小手先の技術では今の消費者はびくともしない。何をやっても駄目なのではなく、基本的なところに戻ってきた。日常的に利用できる店、プレステージの高い店と、はやる店がハッキリとしている」

‐‐昨年は食材調達という面では苦労した一年だったが、業界努力で助かっている面も多々あったという。ただ、この間の原価高騰に対し、価格の見直しも必要だと訴える。

「肉から野菜まで食材面で大変苦しい一年だったが、食品業界も相当努力してくれ、われわれとしてもこの部分は高く評価し、感謝しなければならないと思う。足りない中でやりくりしてもらい、海外調達を図るなどいい面がたくさん出ていた。ひところは食材もブランドがやたらと出てきたが、最近は信頼と時間をかけてじっくり育てている食材が増えている」

「ただ、牛タンの店を出したいと思い価格を調べてみると、なんと輸入物で一キログラム五〇〇〇円、国産だと八〇〇〇円もすることが分かった。それをほかのところでは牛タン定食を一五〇〇円という価格で売っている」

「赤字覚悟でやっているのだろうが、売っても儲からないのは商売ではなく、こういったところはわれわれも勇気を持って価格の改定をしていかなければならないと感じた」

‐‐際コーポレーションは中華・和食・洋食とまんべんなく業態を展開しているが、そこには食材のリスクヘッジと、外食としてある種宿命である、ブームに乗ることも大事との考えから。

「食材調達に伴うリスクヘッジと、どこでどんなブームが来るかまったく分からない実情では、多業態展開を行っておく必要がある。外食はブームにうまく乗っていくことが大事な要素。ブームに乗ると同時に、その次に来るものにも準備していく必要がある」

「今私は北京料理がブームになりますよと言っているが、これは四年後に北京オリンピックがあるからで、必ず北京料理がはやると思っている」

「今年についての予想としては、消費者が食に対する興味という点では減ってきているので、日常で食べていけるような、肩ひじを張らなくても良い自然なレストランがはやりそうだ。ただ、そこも専門的な一品を必ず持っていること。鍋がおいしいとか、おいしい焼き鳥だとか、おいしい自慢の一品を持つことが大事。接待需要の場合はオールラウンダーで良かったが、今はそうではない」

「日本のフランス料理、イタリア料理、中華料理といったものは、日本流に完全に同化したと思う。だからこれからはその追求というのではなく、もっとベーシックな料理に戻るのではないか」

「例えば中華でいえば北京料理、上海料理、四川料理といった、原点に返った料理が人気になるような気がしている」

「酒も焼酎ブームになっているし、洋酒でもモルトウイスキーの専門店が誕生するなど、出尽くした中で専門性を高めている」

‐‐中島社長は高齢化社会が進む中で、今後外食業界が果たす役割は重要だと指摘する。

「今後高齢者が増加して来るが、高齢者の方々にはぜひ華やかな場所にも出かけてほしいと思う。家にばかりいたら体がなまりますし、素敵に年をとっていくにはやはり街に出て、わくわくする気持ちを持ってもらいたい。もちろん、子どもさんやお孫さんたちと出かけるのも良いと思う。生活のエネルギー補給の場として外食を利用すべきだ」

‐‐ただ高齢者が気軽に入れる店がほとんどなく、これが今後の課題ともいう。

「いわゆる老舗と呼ばれる店は、高すぎるから気軽には入れない。また最近の外食店は三〇代前後の人が入る店として作られ、高齢者からみると幼稚な店舗が多い。やはり、高齢者の目線に合う店というのが必要になる」

「われわれの銀座にある和食の店は、キッチリした女将さんがいるが、ここでは『僕の台所だ』といって毎日のように来てくれるお客さまがついている」

「食というのは、ただうまいだけではなくて、もっと空気感までも楽しむものではないか。そういった要素を持った店がもっともっと必要になってくる」

‐‐外食業界もこのところ中国進出が盛んになってきているが、中島社長は中国進出する予定はないという。

「中国マーケットは確かに巨大で、魅力的にもなってきているが、五〇〇億円とか一〇〇〇億円とかの規模を持つ企業なら、ジョイントノウハウやリスクヘッジなどの能力があるので、中国市場へいっても良いだろうが、そうでないところはあまり無理をしない方が良い」

「インターナショナルな企業は、その企業としての役割があるわけで、そうでないところがまねをしても意味がない。われわれはまだ日本市場でやらなければならないことがあり、それを精いっぱいやるだけ」

‐‐今年の外食産業におけるトレンドは、重たいものからもっと軽いものへ、単なるデザインではなく、アートとのコラボレーションなど、もっと居心地感のよいデザインになると予想する。

「もうお客さまをドキッとさせよう、驚かせようといった雰囲気ではなくなってきている。非常に個性的な時代は終わって、色に例えるならダーク系から、もっと明るい、軽い色調のものが好まれると思う。自然色だとか白などの色あいだ。ビビットな色はもうはやらない」

「そして、単にデザインが変わったというのではなく、居心地良さをさりげなく演出するアートとのコラボレーションなどがポイントだと思っている」

(文責・中村雅彦)

●プロフィル

◆なかじま・たけし=一九四八年1月東京都生まれ。七〇年拓殖大学商学部卒業。育った都下福生市では外国の文化に触れ、ファッションや食に対して興味を持つ。東急航空会社、東洋ファクタリングを経て、八三年12月デモデトレーディング(株)を設立し、福生で衣料品の輸入卸を開始。九〇年12月に際コーポレーション(株)を設立。「紅虎餃子房」「胡同四合坊」「虎萬元」「胡同MANDARIN」などの業態を持ち、「元祖・鉄鍋餃子」や「韮菜饅頭」などのオリジナルメニューを開発し、大ヒットさせた。現在、リーズナブルプライスからアッパープライスまでのチャイニーズ業態を日本全国展開中。そのほか「万豚記」「萬力屋」のFC化をはじめ、フレンチ、イタリアン、スパニッシュ、カフェ、ダイナー、和食、エスニックなど幅広い業種・業態も展開、今後はおかゆ、パン、豚カツなどの専門店も計画している。さらにフードビジネスだけにとどまらず、衣料、古着、アンティーク家具、雑貨などの分野にも進出している。

◆際コーポレーション(株)(東京都目黒区大橋二‐二二‐八、電話03・5453・7791)資本金=四億六六〇〇万円/グループ店舗=二四二店舗(直営一七九、物販二五、FC三八)/年商=一六四億円

※数字は二〇〇三年10月期現在、FC含むグループ全体。

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