トップインタビュー ワイ・ヒガ・コーポレーション アーネストM・比嘉氏
‐‐比嘉さんが日本でピザをビジネスにしようとした動機は何だったのですか。
比嘉 動機は単純だったんです。米国でたまたま経済雑誌を読んだ時、その雑誌でメジャー野球チームのデトロイトタイガースを一九八三年、一〇〇億円で買収した経営者の話を知ったのです。その経営者はピザビジネスの経営者なのですが、その記事でピザ事業がビッグビジネスだということを認識したのです。それでその経営者に会ったのです。
‐‐そのピザの会社が米ドミノピザだったわけですね。
比嘉 そうです。その出会いがまたドラマチックだったのです。待ち会わせの場所には当然、車で来られると思っていたのですが、何とヘリコプターでやってきたのです。ドミノピザ所有の専用機なのです。それに乗って本社に行ったのです。彼はすでに成功を収めていて、クラシックカーのコレクターで、四〇〇台を所有、さらにジェット機三台、愛用のクルーザーを四台、そのうえ、ピザアイランドという島も持っているのです。これらの財産をピザ事業だけで築きあげたのです。当時米ドミノピザは二〇〇〇店、現在は五〇〇〇店舗と急成長していますが、とにかくビッグビジネスだということを知ったのです。
‐‐サクセスストーリーで、まさにアメリカンドリームの代表例ですね。
比嘉 ドミノピザを知って、さらに印象的だったのはトップマネージメントの平均年齢が二七歳だったことです。そのことが非常に魅力的だったのです。これまで私はいろいろのビジネスをやってきましたが、どの会社のトップも皆私より年上でした。ところがドミノピザは私より若い人達ばかり。それで、その若い人達と一緒に事業をしたい、取引きしたいと思ったのです。
‐‐それで日本の市場を調査されたようですが、二〇年前に日本のピザチェーンの実態はどうだったのですか。
比嘉 当時、日本にはまだ宅配ピザチェーン店はありませんでした。しかし米国資本のピザチェーン店が日本に入ってきていたのです。しかし、どれも成功していなくて少しがっかりしたのです。
それで何故失敗したのか調べたのです。日本では当時、ピザはスナックとして扱われていたため商品の単価も低かったのです。さらに、客の注文を聞いてから焼くので時間がかかり、客回転が悪かったのです。それから、日本人にはピザの味が合わないと言われたことでがっかりしたのです。米国ではナチュラルチーズの一人あたり年間消費量は米国の一三㎏に対してわずか一㎏弱だったのです。さらに米国では宅配ピザがもの珍しがられて人気を得たのですが、日本ではそば屋さんなどの出前が当り前で少しも珍しい事業ではなかったのです。それに、当時の日本人は家の中で出前の料理を食べるより外食を楽しむ傾向が強かったのです。とくにメーンターゲットの若い女性はそうです。
‐‐いろいろ市場の調査をしてマイナス材料ばかりが多いのに何故、宅配ピザの事業に踏み切ったのですか。
比嘉 私の信念なのですが、米国で成功したコンセプトは日本に持ってきても成功する率は高いと確信していたことです。
例えば経済が発展する中で、コンビニエンスストアが米国で伸びましたが、そのトレンドは日本にも波及しましたね。簡便性と気軽さが受け入れられたのです。
さらにタイムイズマネーという感覚が強まり、電話一本で三〇分以内にピザを出前してくれるという事業が受け入れられる環境になっていったのです。ライフスタイルが変わり始め、働く主婦は五〇%を超えています。そして、かつては外食を楽しんでいた人が家庭で家族といっしょに食事をするようになっていることです。
米国のトレンドは日本でも起きると予測したことが決め手ですが、私の強みは日系三世なので日本人の血が入っており、日本人の心情が理解できるいうことです。
‐‐一九八五年に一号店を出店し、現在、直営店だけで一〇二店舗を展開していますが当初計画通りに進んでいますか。
比嘉 残念ながら一〇〇店舗達成までに一年多くかかりました。この原因は、バブルで人手不足がひどく、正社員を確保することができなかったことです。
‐‐リクルート活動に関してかなりユニークなことをやられ注目されていますね。
比嘉 現在、正社員四〇〇人、アルバイト三〇〇〇人を採用していますが、若い人をアルバイトとして採用し、定着を図るため、一流のディスコを借り切ってパーティーをやったり、優秀な成績のアルバイト従業員を米国本社に招待しています。これは毎年やっているインセンティブで米国の発想ですが、日本の若者に受けるような内容の企画にしているのです。ですからディスコがトレンドになっている時は、最も人気のあるディスコを借り切ってイベントをやるのです。
‐‐今後の出店計画はどうですか。さらに、現在は宅配中心ですが、イートインなど新業態の開発やFC展開は考えないのですか。
比嘉 米国資本によるファストフードチェーンなどの事例を参考にしてマーケットを考えると、米国の約一〇分の一の市場になると計算できます。ですから、まだ積極的に出店をしていく計画です。しかし、日本の土地は高く、イートインによって集客を図るためには相当なコストがかかります。したがって立地に左右されない宅配事業が最も効率的と判断します。また、FCにすると質の高い商品とサービスの提供が維持できない恐れがあるので直営に限定して運営していこうと考えています。
‐‐ありがとうございました。
ピザの宅配事業でアメリカンドリームを日本で実現しようという大きなスケールで挑戦する㈱ワイ・ヒガ・コーポレーションのアーネストM・比嘉氏。ハワイ生まれの日系三世。「米国でトレンドになったものは日本でも成功する」という確信をもって市場開拓を進めている。動機は単純だが、市場調査は入念に行い、人材の確保、育成に当たっては日本の若者の心情をとらえて心にくいばかりにマネジメントしている。サクセスストーリーを着実に築いているように見える。 (文責・冨田怜次)