飲食店成功の知恵(68)開店編 個性・感性が大事な時代

1995.06.19 78号 20面

外食は消費者にとって最も身近なレジャーである。レジャーとは、生活に欠かせない喜び、楽しみという意味である。温泉や海外旅行に出かけるのだけがレジャーではない。というより、いまの消費者は毎日の生活の中にレジャー的要素を求めている、といったほうがいいかもしれない。外食が最も身近なレジャーなのはそのためだ。

会社の帰りに同僚たちとお酒を飲んだり、週末に家族と食事をする。あるいは恋人と二人だけのディナーを楽しむ。どれも生活から切り離せない、ささやかなレジャーである。しかし、予算的にはささやかではあっても、その内容は豊かなものでなければいまの消費者は満足しない。

ここで大事なことは、その豊かさの中身である。豊かさというとすぐにモノを思い浮かべる人がいるが、それは日本がまだ貧しかった三〇年の発想である。あのころは、ふだんと違うモノを食べることがそのまま、ちょっとしたお祭りでありレジャーであり得た。しかし、前回も述べたように、いまの消費者が飲食店に求める豊かさとは、ゆとりとか楽しさといった精神的なものだ。

もちろん食事をするのだから、料理はおいしくなくてはいけない。たんにおいしいわ、などということは、いまや当たり前のことである。だから、よりおいしいに越したことはないが、一部のグルメを自認する人たちを除けば、それは二次的な問題にすぎない。なぜなら、食事をしたりお酒を飲むこと自体が目的ではないからだ。消費者にとっていちばん大事なことは、楽しく豊かな時間を過ごすことのはずである。

飲食というモノを提供すれば済んだ時代は、サービスとか雰囲気はあまり重視されなかった。しかし、豊かな気分が求められるいまは、そこそこおいしい料理を出すだけでは、お客の心をとらえることはできない。サービス、雰囲気にお客の心を動かし釘づけにする要素が不可欠である。他のお店にはない楽しさとか面白さ、つまりお店の個性が大事な時代ということだ。前回、飲食業はモノを通して心を売る商売だといったが、だからこそ、店主個人の個性や感性を存分に発揮できるのだ。

長引く景気の低迷に価格破壊の波と続いて、飲食業界でも低価格競争に走るチェーンやお店が目立ってきている。しかし、こういう現象に軽々しく乗せられてはいけない。消費者はこと飲食店に関しては、ただ安ければいいと思っているわけではないのだ。たしかに、バブル時代のようなぜいたくは影をひそめた。しかしそれは、決して飲食店離れではない。自分の身の丈に合ったお店を求め始めたということで、むしろ正常なあり方になってきたといえる。妙なミエを張ったり無理をしないで、飲食店本来の楽しさを楽しもうとしているのである。

低価格競争に走るお店は、このことが分かっていない。価格を下げるためにサービスや雰囲気を削ってしまったら、飲食店としての魅力は半減してしまうのだ。それではたんに空腹を満たすだけの場所でしかない。そういうお店がいまの消費者にとって、レジャーの対象にならないことはいまさらいうまでもないだろう。消費者が「実質的価値」に目を向け始めたいまだからこそ、個性ある、感性溢れるお店づくりが重要なテーマになっているのだ。

個性化は差別化の第一歩だ。固定客とはいいかえれば、お店の個性の支持者であり、お店の感性への共感者なのだ。しかし、多くのお店はそのことに気がついていない。チャンスは自分でつかむものだ。他店と同じことをしていては、成功のチャンスなど見出しようもない。あなたの個性、感性が決め手である。

フードサービスコンサルタントグループ

チーフコンサルタント 宇井 義行

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